約 2,287,719 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/203.html
ハルヒ「やりたいのよ・・・!! やるわよ! どけ邪魔臭い!!ロリエロゲ!うせろ!! のれえんだよ!マイピクチャにいれすぎなんだよ! おい!!!」 キョン「・・・・。」 ハルヒ「インターネットさせろぼろPC!!!!!」 ハルヒは怒鳴るとキーボードで モニターを18回殴った ハルヒ「・・・・、始まれ!っていてるだろ!!! うせろ!SOS~!!ボロPCうぜぇぇぇええ!! ア・・ハァ・・・・・ハァ・・・・ハッ・・!」 古泉「・・・・・。」 ハルヒ「なんだよコイツ?! お絵かきチャットで荒らすな!!豚ーーーー!!!! 死ねちんかす野郎!!!」 古泉「・・・・涼宮さんおちついてください。」 古泉「ぐわっ!!」 キョン「古泉!!」 バンッ、 ハルヒ「うそだ!ふたばになんで 擬人化スレないの?! スレ立て・・すればいいのよ・・・。 ・・・・サイズが大きすぎる?! そんなばかな! イヤーーーー!! オーフォフォフォww 人生オワタ!!イヤァァァア! イヤァァオアオアオオアオ、 おあー、ゆるせねー、糞板フォーーウ!!、 SOS団の団長ハルヒが、こんな 板にやられちゃうわけ?! 私の名前はハルヒ!! サイズ小さいのupするわ! ・・・・おあ?この写真は犯罪?! 死ねーーー!! 消えうせろ!!ファック!まじうぜえええええええええええええ しねえええええええええええええええ しねええええええええええええええ みんなしにうせろもういやだあああああああああああああああああ」 古泉「・・・・。」 キョン「・・・・。」 みくる「うえーーーーーん!」 長門「・・・・・・・・」 (元ネタはキーボードクラッシャーだと思われる)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2563.html
声のした方に顔を向ける。 「古泉か。……ここは?」 「病院です。冬の時と同じ部屋ですよ」 古泉の話を聞くと、どうやら前回と同じように、俺は倒れて病院に運ばれたということになっているようだ。 「今はいつだ?俺はどのくらい眠ってたんだ?」 「今が夕方ですから、ほぼ丸一日といったところですね」 「今日の部活は?」 「もちろん中止ですよ」 そう言って古泉は右手を大きく動かす。 『涼宮ハルヒの交流』 ―第六章― その先には俺の看病をしてくれて疲れているのか、眠っているハルヒの姿が見える。 「ちなみに涼宮さんは今日は学校にも来ていません」 じゃあハルヒはずっとここにいてくれたってことなのか? 「そういうことになりますね。かなり心配していたようですよ。ところで……」 古泉はほんの少しばかり真剣な顔つきになる。 「今回は一体何が起こったのでしょうか?」 ということは古泉は何もわかってないのか? 「昨日の昼間にかなり大きめの閉鎖空間が発生しましてね。あるいはそれが関係しているのかと」 ああ、やっぱ閉鎖空間はできてたか。 「その顔は、心当たりがおありで?」 「少しな。たぶん原因は俺のせいだ」 「と、言いますと?」 「ああ、昨日の昼にな……と、その前にこの一日に何が起こったかを話しておこうと思うんだが」 「構いません。どうぞ」 古泉はそう言って手で続きを促す。 「実はな、異世界に行ってたのさ」 ……………… ………… …… この一日について、一部省略しつつも大まかに全てを伝える。 「と、まぁこんな感じだ」 「そんなことが……」 古泉は予想以上に驚いているようだが、そんなに驚くことか? 「いえ、異世界人を呼ぶことが出来るとは思っていませんでしたから」 「そういえば向こうのお前も同じようなこと言ってたな。異世界に干渉するのは難しいとかなんとか そっちの世界にも神がいる可能性がいるから、ハルヒでもそう簡単にはいかないとか」 「ええ、そんなところです。ですから、この世界からあなたをどうすれば連れて行けるのかがわかりません。 例え向こうの涼宮さんがそう望んだとしても、おそらくこちらの涼宮さんが妨害すると思われますし」 そういえば言うの忘れてたな。 「向こうのハルヒの話だと、俺が異世界に行ったのは、向こうのハルヒの力じゃないらしいぜ」 「向こうの涼宮さんには力の自覚があるのですか!?そんな……」 「まぁでも特に問題はなさそうだったぜ。知ってるって言ってもなんとなく程度みたいだったし」 「そうですか……。それは非常に興味深いことですね。 だからといってこちらの涼宮さんに力の事を教えても問題ないと考えるのは早計ですけど」 確かに。向こうのハルヒとこっちのハルヒにはかなり違いがあるようだったしな。 「それにしても、ではどうしてあなたは向こうの世界に行ったのでしょうね。 やはり昼間の閉鎖空間が関係して……!なるほど、そういうことですか」 わかったのか?なるほどって言われても全くわからんぞ。 「昨日の昼に何が起こったか教えていただけますか?」 正直言うとあんまり話したくないことなんだが、言わないと話が進まないよな。 「昨日の昼休みに弁当を食べた後、いつものように谷口、国木田と話をしていたわけだ。 で、これもいつものことだが、谷口が彼女がどうとか話始めたときにハルヒが帰ってきた。 まぁその時は別にどうともなかったんだが、時間が経って二人が去った後にハルヒが聞いてきたんだ。 『あんたも彼女欲しいの』って。俺は欲しくないことはない、みたいな感じで返したと思うが」 「なるほど、やはりそういう話ですか」 やはりって何だ?やはりって。気にくわんな。 「で、俺もハルヒにお前こそどうなんだ、って聞いたらいつもどおり『普通の人間には興味ないのよ』ってさ。 そのハルヒの様子が気に入らなかったのかなんでだかは知らないが、つい熱くなっちまって、 普通じゃない人間なんか見つかりっこないんだから、普通の人間で満足するしかないんだよ、って、 ちょっとばかり声を荒げちまったのさ。そうしたら『うっさい、だまれ!』って怒鳴られた。 たぶんかなり怒ってるんだろうが、それ以降は全く口をきいてくれなかった」 古泉はクックッ、と変な笑い方をして言う。 その笑い方はやめろ。気色が悪い。 「それはあなたが悪いですね」 「そうだな。そんなムキになるところじゃないよな」「いえいえ、違いますよ。あなたが素直じゃないのがいけないのですよ」 そう言ってまた笑う。 何を言ってるんだこいつは?全くわからんぞ。 「まぁそれでも結構ですよ。とりあえず何が起こったかについてはおおよそ見当がつきました」 まじでか?じゃあ、どうして俺は異世界に? 「結論から言いますと、あなたはこちらの涼宮さんによって異世界に飛ばされたのですよ」 飛ばされた?そんなことができるのか? 「異世界から連れてくるよりは、異世界に飛ばす方が簡単だということはなんとなくイメージできるかと」 まぁ確かにそう言われてみれば、ポンっと飛ばすだけならそう難しくはないような気はするな。 「ということは、ハルヒが怒って俺に愛想をつかしちまってことだな」 「いいえ、違います。むしろ逆です」 またこいつはおかしなことを言い出した。逆ならなんで飛ばされる必要があるんだ。 「では簡潔に聞きますが、あなたは涼宮さんのことが好きですね?」 「………」 「ふふっ、あなたの態度は口と違っていつ見ても素直ですね。で、涼宮さんもそれをある程度は感じています。 まぁ涼宮さんは恋愛感情などに疎い方ですから、確信があるというほどではないでしょうね」 「その話が何の関係があるんだ?」 俺の質問を聞いているのかいないのか、古泉は変わらない調子だ。 「先ほどあなたは涼宮さんが『普通の人間には興味ない』と言ったと言いましたが、それは嘘です。 彼女は普通の人間にも興味を持っています。いえ、持てるようになったというべきですか。あなたのおかげで。 ですが、彼女も頑固な人です。『普通の人間でもいい』と簡単には言えないのですよ。 つまり、彼女もその頑固さ、意地ですかね。それと感情のジレンマに悩まされているというわけです」 「話が全く見えてこないが、どちらにしろハルヒは俺にいなくなって欲しいと思ったんじゃないのか?」 「ですから、その全く逆です。彼女はあなたにずっと側にいて欲しいと願っています」 「ずっと側にいて欲しい人間を異世界に飛ばす人間の気持ちが俺には全く理解できないんだが?」 やれやれ、と言って古泉は大きく息をつく。 くそっ、なんかムカつくな。 「これは例え話ですが、涼宮さんがあなたのことを好きになってしまったとします。涼宮さんはその気持ちを伝えたい。 ですが、普通の人間であるあなたにたいしてそのような感情を抱くことは自分の主義に反することになる。 いえ、この場合は主義というよりも思想ですかね。それは涼宮さんのアイデンティティーとも言えます。 それを覆すということは、自分自身の否定に他ならない。だからこそその感情を認めるわけにはいかない。 ですが、そうは言ってもあなたには側にいて欲しい。それは事実です。ならばどうすればよいでしょうか」 知らん。どうにもならないんじゃないのか? 「いいえ、答えは簡単です。あなたを普通の人間じゃなくしてしまえばいいのですよ」 こいつはまたとんでもないことを言い出した。 「そんな無茶な。じゃあ俺に変な力が生まれたとか言うんじゃないだろうな?」 「いえ、おそらく涼宮さんはあなたに特殊な能力を持たせることは望んでいません。 なぜなら、涼宮さんが好きになったのはあくまで何の力も持たない普通の人間のあなたなのですから。 自分への言い訳のために、申し訳程度にあなたに特殊な属性を付加したにすぎません。 それが、異世界人という属性です」 「いや、異世界人と言っても俺はこの世界の人間だぜ?」 「ご心配なく。涼宮さんはあまり通常の設定をしないようなので。例えば僕の力もそうです。 涼宮さんは超能力者を望みましたが、僕の力は一般人が想像する超能力とはかけ離れています。 長門さんにしてもそうです。彼女も、UFOでやってくるようなごく一般的な宇宙人ではありません。 それに比べれば、あなたはまだ普通の異世界人とも言えると思いますが」 そう言われてみれば変だな。ハルヒは普通の超能力者すら嫌なのか?わけわからん。 長門に至っては本当にわけのわからん存在だしな。朝比奈さんにも何かあるのか? 「言うなれば、あなたは他所に行ってしまった転校生が、再び転校して戻ってきたようなものです。 まぁどちらにしろ転校生というわけですね」 古泉はわかりやすいのかわかりづらいのかよくわからん微妙な例えを出してきた。 「つまりハルヒは俺を異世界人にするためだけに、俺を異世界に飛ばしたって言うのか?」 「おそらくはそうです。その証拠にちゃんとここに呼び戻されているでしょう?」 行っていたのはたった一日だしな。確かに一試合でも投げれば肩書きは元メジャーリーガーになるもんな。 それにしても……、 「俺が異世界人になるってのはそこまで重要なことなのか?」 「そうですね。かなり重要かと」 そうは思えないんだがな。そんなにこだわることか? 古泉め、また笑ってやがる。くそっ。 「女性にとっては言い訳というものが非常に重要になります。 例えばデートに誘われたからといって、簡単に誘いにのると軽いと思われるのでは、という不安があります。 ですが、相手から何度も誘われることによってその気持ちは少し変わってきます。 『別に私が行きたいわけじゃないが、これだけ熱心なのだから付き合ってあげよう』と。これが言い訳です。 要するにそれと同じことです。『普通の人なら断るんだけど異世界人なら仕方ないよね』というわけです。 涼宮さんは言っていたのでしょう?『普通の人間じゃなければなんでもいい』と。ですから同じことです。 異世界人だからあなたと付き合ってあげる。別にあなたのことを好きになってしまったからではない。というわけです」 何かあまりよくわからんような微妙な話だが、 「まぁいい。とにかくお前の言うことが当たっているならば、俺が再び飛ばされることはないってわけだな?」 「おそらくは。もし何らかの他の意図がある場合にはわかりませんが」 そうか。ってことはこれで一件落着ってことだな。とりあえず安心だ。 「何をおっしゃるんですか。あなたにはまだ重要な仕事が残っているじゃないですか」 重要?仕事?何のことです? 「おや、とぼけるおつもりで?何のためにあなたは異世界まで行ったと思っているのですか?」 ……わかってるよ。 「……ちゃんとやるよ。そのつもりだ。それにその方がお前も助かるんだろ。」 「もちろんそうですが、どちらかというと僕は一人の友人として応援しているのですよ」 はいはい、ありがとよ。「まぁそういうことです。……涼宮さん!起きてください。彼が目を覚ましましたよ」 古泉はハルヒに呼びかけながら肩を揺する。 「……ん、古泉くん……?ってキョン起きたの!?あんたあたしがどれだけ心配したと思ってんのよ。 あ、いや、心配っていってもほら、だ、団長だから団員のこと心配するのは当たり前でしょ」 「……ああ、心配かけてすまん。ありがとよ」 「ま、ちゃんと目を覚ましたならいいわ。見た感じだいじょぶそうだし」 古泉がふと立ち上がりドアの方へ向かう。 「何かお二人に飲み物でも買ってきますね。……では、お願いします」 出ていく前に俺の方を向いて気持ちの悪い笑みを浮かべてきやがった。 そして、ここでハルヒと二人きりになった。 ◇◇◇◇◇ 最終章へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/986.html
9月11日 いつものように朝が訪れる。 朝比奈さん(長門)が言っていた元に戻せるようになる時まであと24時間を切った。 俺は鏡の前で最高の笑顔を作ってみた。 鏡に写る例の古泉スマイルともようやく今日でお別れである。 天候は快晴。 この調子なら今夜の満月はきっと綺麗なことだろう。 俺は軽快なステップで学校へと続く長い坂道を登っていった。 昼休み。 いつものように古泉(俺)の周りに集まる女子の群れ。 当然今日も俺は弁当など用意していない。 だが食いきれないほどの昼食が俺の目の前にある。 なんで古泉がこんなにモテるのかは知らないが、 これは古泉が特定の彼女を作っていないことも原因の1つであろうだろう。 谷口にこの状況を分けてやりたいぜ。 特に何事もなく時間は過ぎていった。 俺は古泉として振舞うことにもうそれほどの苦痛を感じていなかった。 もうこれで最後と思えばこそ最後くらいより古泉らしく演じてみようという気にもなっていたからだ。 放課後──。 部室に委員長を連れていき今日参加するメンバーを待った。 長門(古泉)、朝比奈さん(長門)、鶴屋さんが来て、 最後にハルヒ、俺(朝比奈さん)の後から 谷口、国木田までついてきた。 「す、すいません……どうしても来たいって言ってたので……」 俺(朝比奈さん)がとてもすまなそうに委員長に謝っていた。 「いえいえ、お友達の方もぜひ一緒に来て下さい。 人数が多い方がきっと楽しいでしょうから」 委員長の人の良さには頭が下がる。 「あら、あなたがわたしたちSOS団を今日のパーティーに招待してくれた子? でかしたわ! じゃんじゃんお呼ばれしてあげるわ!」 ハルヒは遠慮というものを知らないのか、 初対面の委員長の頭をなでなでしながら喜んでいた。 「いや~、朝比奈さん今日の制服も素敵ですね。 あ、僕谷口です。いつぞやの野球大会のときのことは覚えていますか? そう、あのとき貴重なホームランを打ったあの谷口です!」 朝比奈さん(長門)は少しだけ谷口の方を向いたが、 何も得るものがないと判断したか、完全無視という選択肢を選んだ。 「ちょっとキョン。 わたしたちはこれから浴衣に着替えるからあんた達は外に出てなさい」 ん……お、おい! 長門(古泉)! お前もまさか一緒に着替えるとかいうんじゃないだろうな! 「あったりまえでしょ。 みんなで着なきゃ着付けるのも難しいんだからね」 そうじゃない……その長門の中身は古泉なんだ…… ハルヒは俺達男供を投げるように追い出した。 「おわーっ! 相変わらずみくるのおっぱいすっごいねぇ~。 こんなに大きくしていったい地球をどうするつもりさ~?」 「……」 「こらー有希! なんでそんな端っこで着替えてるの! もっとこっちで着替えなさいってっば!」 「え、いや……わたしはここでいい……、あ、ダメ。 ちょ、じ、自分でやる……自分でやるから……」 官能的なやりとりが扉の向こうで繰り広げられているのを、 谷口がじっと耳を凝らしながら聞いていた。 俺もひそかに聞き耳を立てていたのは別に男として自然なことだろう。 「じゃーん! どう?」 数分後、浴衣姿でハルヒが登場した。 「とてもお似合いですよ」 別にお世辞ではない。 ハルヒの浴衣はつい先日の夏休みのときの物であった。 鶴屋さんの浴衣もスレンダーな体にピタッと合っていてこれまた絶品である。 委員長の浴衣も質素な色合いでありながらよく持ち主を引き立てている。 いかにも和服美人といった様相でお似合いである。 長門(古泉)の顔がかなりのニヤケ面で固まっている。 さすがの古泉でも応えたか。 この話はあとで詳しく取り調べさせていただこうか。 「月見といったら浴衣よね。 でも月見には餅つきをするウサギさんも欠かせない要素だと思うの」 そう言われて最後に現れた朝比奈さん(長門)だけは なんとバニーガール姿である。 「………」 朝比奈さん(長門)は自分の大きく開いた胸元のあたりがスースーするのを気にしている様子である。 「うおぉぉぉぉ~~!」 谷口の鼻の下がみるみるうちに伸びていった。 「うぅぅ~……」 俺(朝比奈さん)だけが何か言いたそうにしていた。 これから委員長の家まで歩いていくのにその格好はないだろ…… でも……正直たまりません。 それにしてもハルヒが大きな2つの袋を持っているのが気になった。 「涼宮さん、その2つの袋はいったい……? もう片方はさっき着ていた制服でしょうけど」 「ああ、これ? これはね、うっふっふっふ……内緒よ! 気にしないで。 それでは…レッツゴーーー!!」 「お、おー……」 案内された委員長の家はそれはそれはわかりやすいくらいの大金持ちって感じの家であった。 庭は俺ん家が200個くらい入りそうなほどでかく、 広大な池の中には100匹ほどの色とりどりの錦鯉が泳いでいた。 遠くに見える洋風の屋敷もなかなか壮大な雰囲気である。 なるほど、これならパーティー会場にはもってこいといった感じだ。 一瞬たじろぐメンバーたちを尻目に、 ハルヒと鶴屋さんはいかにも自分の家のようにスタスタと中へ入っていった。 なんであなたたちはこんな屋敷に無料で招待されて平気な顔が出来るんだ。 それに呼ばれたのは古泉(俺)だろうが! それを差し置いて入るなっつの。 でっかい洋間に通された俺達ではあったが、 まだ夜までは時間が少しあった。 俺達はゲームをしたり、 パーティー用の食事を作るのを手伝ったりして時を過ごした。 「……そして、こうしてピンポン玉くらいの大きさに丸めるんです」 委員長に習いながらみんなでお月見団子を作ってみたりもした。 ハルヒはごつくてデカいだんごを作り、 朝比奈さん(長門)は完全に均一性の取れたまんまるのおだんごを作った。 俺(朝比奈さん)は小さくてかわいいおだんご。 長門(古泉)は普通のただの丸いおだんご。 鶴屋さんは一つ一つのおだんごをウサギさんやらネコさんやらの形にしていた。 みんなで無計画につくるもんだから 形もバラバラでとんでもない数のおだんごになった。 どうやったら食べ切れるんだろうか。 そして全部の準備が整って、 空に満月が浮かんだのを確認していよいよパーティーが始まった。 庭に置かれた大小のテーブルの上には豪華絢爛、 目を奪わんばかりの食事が所狭しと並べられていた。 「じゃあ、みなさんどうぞごゆっくりご自由にお楽しみください」 委員長の一声と共にいっせいにみんなが料理へと飛びついた。 まず長門(古泉)が手始めとして場を盛り上げると言い出した。 長門(古泉)はコインマジックを披露した。 長テーブルの上にコップを置いてその中にコインを二枚入れる。 その上からさらにコップをかぶせ、上から布で覆いつくす。 長門(古泉)が口元でボソボソと呪文を唱え、 「……物質転送完了」 の声と共に布とコップを1回転させ、布をはずすと…… なんと2つに重ねられたコップの上の段と下の段に1枚ずつのコインが入っている。 コインが一枚上のコップの中へと移動しているのだ。 「すっごーい! 有希って実は超能力者か宇宙人!?」 ハルヒは素直に感動して大きな拍手をしていた。 よくある手品なんだろうが、俺もどういう仕掛けになっているのかわからないのでこれは素直に凄いと思った。 次の手品はスプーンマジックだった。 ハルヒにスプーンを持たせ、その上から布をかぶせる。 また長門(古泉)が口元でボソボソと呪文を唱え、 「……マッガーレ!」 の声と共に布を取るとハルヒの持っていたスプーンが手も触れていないのにくにゃりと曲がっていた。 「すごぉっ!!」 会場にいたみんなが拍手喝さいを長門(古泉)に送った。 俺(朝比奈さん)が手品に使った布を何度も裏返しながら不思議そうな顔をしていた。 谷口と国木田のくだらない即席漫才を聞きながら、 少し落ち着いた場の空気を尻目に朝比奈さん(長門)が俺のそばで問いかけてきた。 「今回の涼宮ハルヒの行動の意味がわからない。 食事を取らなければ人は死んでしまうと聞いている」 昨日までのハルヒのダイエットのことだろう。 「わたしも食事という形でわざわざ栄養を取る必要は無いが、 人間の生活形態にあわせていつも食事をとることにしている。 少なすぎるといけないから体の容量よりも常に多めに取っている。 それなのになぜ涼宮ハルヒはわざわざ食事を制限していたのか」 「ハルヒはな……痩せたかったんだよ」 「だからそれはなぜ? 痩せるということは飢えるということ。 彼女にとって得るものは何も無い。 それに彼女の体型は人種の平均値から見ても痩せ型といえる。 なぜ?」 うーん、なぜって言われてもな。 俺にはわからんよやっぱり。 女心ってやつは。 宇宙人製アンドロイドのお前だっていつかはわかる時がくるさ。 朝比奈さん(長門)の順番が回ってきた。 女の子達は別にやらなくてもいいと言ったが、 「やる」 といって聞かなかったのでやらせてみることにした。 長門(古泉)がさっき手品をやったようにこいつも手品(ズル)でもやるのかと思いきや、 「少し準備する」 といって朝比奈さん(長門)はさきほど自分たちで作ったおだんごを大量に机の上に並べ始めた。 大皿に山と積まれたおだんごの前に座り、 「全部で300個ある。 5分で全て食べきる」 と言ったとたん、だんごを口に入れ始めた。 ひとつずつ着実にではあるが、 掃除機のような物凄い勢いであの朝比奈さん(長門)の小さな口に吸い込まれていく。 俺(朝比奈さん)がそれを見て少し青ざめている。 明日朝比奈さんが体調を崩してなければいいのだが。 見事4分58秒で全て平らげた朝比奈さん(長門)は誇らしげに少しだけうなづいた。 それをみた鶴屋さんはまたなぜか大爆笑していた。 「あっははははっ! み、みくる~~っ! あんたそんなキャラじゃないさ~! 無っ責任だな~! あっははっ! あーっはははーっ!」 どうも鶴屋さんの言動はところどころに意味不明な点がある。 「まだまだお料理はたくさんありますから皆さん遠慮なく召し上がってくださいね」 委員長が庭に置かれた大きなテーブルの上に新たな料理やおだんごを並べに来た。 ハルヒは目の前にうず高く積まれたおだんごの山を見て何か躊躇しているような仕草であった。 俺が少し助け舟を出してやるか。 「涼宮さん。食べた分は動けばいいんです。 明日はスポーツの秋を楽しみましょう。 卓球でもバレーでもサッカーでもアメフトでも受けて立ちますよ」 「言ったわねぇ。古泉くん! その発言にはきちんと責任取ってもらうんだからね! そうね、明日はプロレスなんてどう?」 責任取るのは古泉だからな。 俺はもう知らんぜ、へっへっへ。 ハルヒはおだんごを1つつまんで豪快に一口で飲み込み、 晴れ晴れとしたいつもの笑顔をして親指を立てた。 そして堰を切ったように次々とおだんごへと手を伸ばしていった。 俺も負けじと手を出す。 こういうものは得てして大してうまいものではないのだが、 ハルヒの嬉しそうな表情を見ているだけでなんとなくおいしいような気がしてくる。 ついに俺の宴会芸の順番がやってきた。 俺(朝比奈さん)を連れて前に出る。 演目は昨日決めたばっかりのアレだ。 「えー、彼には朝比奈さんの物まねをやってもらいます。 さあ、どうぞ」 「え、え、う、あ、あの~ふえぇぇ~」 俺(朝比奈さん)がみんなの視線ですっかり赤くなり、 ついにはしゃがみこんでしまった。 それを見てみんながどっと笑う。 特に鶴屋さんは腹を抱えて笑っている。 こういうのは笑いにつられるというものがあるから、 たとえつまらなくても彼女のように大笑いしてくれる人がいると助かる。 いや、それにしても本当にこの俺(朝比奈さん)の物真似は完璧だね。 なんせ本人がやってるんだからな。 それにこうすることによって最近の俺(朝比奈さん)の挙動のおかしかった点の言い訳が成り立つ。 つまり物真似の練習だったといえばいい。 ハルヒはそれを見てニンマリと笑い、 さきほどから気になっていた袋から衣装を取り出して俺(朝比奈さん)に渡して命令した。 「なんとなくこう来るのは予想してたのよね。 キョン! これを着てもーっとみくるちゃんに近づきなさい!」 ハルヒが取り出した衣装。 それは見たことのある形状をしていた。 赤くて小さい布地、網タイツ、蝶ネクタイに、シッポおよびカフス、そしてウサギ耳。 待て待て待て待て待て! どこからどう見てもバニー衣装だ。 おかしい。さっきから朝比奈さん(長門)が赤いバニー衣装を着ているから、 同じタイプのバニーは部室にはないはずだ。 「ああ、これ買ったの。この前の大食い大会の商品券で」 こんなことに使われるとは思いもよらなかった。 ハルヒが右手にデジカメを構えて100Wの笑顔を見せた。 やれやれ。 こういう笑顔のハルヒには逆らえん。 「あ、古泉くんの分もあるからね」 ……はい? 古泉の物真似と関係ねえだろ! それを聞いて長門(古泉)が少し青ざめた表情をしていた。 見ると俺(朝比奈さん)はすでにハルヒに無理やり着替えさせられていた。 大きめのサイズにしてあるといってもそこは女性用だ。 あきらかに胸の部分の布地が足りず、 エロティックがあふれ出ていた。 股間のモッコリも目に余る醜態である。 「さあ! 早く着替えて! なんならあたしが着替えを手伝ってあげようか?」 ウサギ耳を振り回しながらニヤニヤとハルヒが笑った。 その後の展開は言うまでも無いだろう。 バニーガールの衣装を着た古泉(俺)と俺(朝比奈さん)が、 二人仲良く物真似芸を披露しながら周りを爆笑の渦に巻き込んでいた。 恥ずかしさと情けなさで涙が出そうだ。 実際俺(朝比奈さん)のほうはとっくにもう泣きじゃくっている。 その姿がまた朝比奈さんらしくておかしさをかもし出している。 最後に全員で記念撮影し、 俺たちの恥辱は歴史に永遠に刻まれることとなった。 そうこうしているうちに時間が経ち、 お月見パーティーはお開きとなった。 委員長とその家族にお礼を言って俺達は帰路についた。 ハルヒは歩きながら丸く空に浮かぶ満月を見て何か哀愁のようなものを漂わせていた。 こうして黙って上を見上げている仕草を見ると、 なかなかのいい女に見えてくるから不思議だ。 「あたしさぁ……昔、月面にはきっと何か生物がいるって信じてたのよね」 「おや? 今は信じていないんですか? 涼宮さんにしてはずいぶん一般常識的な意見ですね。 よく月にはウサギが住んでいてオモチをついているというじゃありませんか」 ちょっとハルヒをからかってみる。 「何言ってるのよ! 子供じゃないんだからね! 月面に生物がいないことくらいは見ればわかるじゃない」 少しムキになりながらハルヒが反論してきた。 そうか、いくらハルヒでもそのくらいの常識はあるんだな。 「月面じゃあ生き物は生きていけないわ! 空気も水もないからね。 だから月の地面の下じゃないとダメなのよ! あれだけの広さだもの! 月の内部にはきっと何かいるはずよ! 月星人は地底に都市を作ってそこで生活してるのよ。 そしていつか地球を我が物にしようと虎視眈々と狙っているに違いないわ」 前言撤回。とことんバカだこいつは。 だが、ハルヒがそんなことを本気で願っているとそんなことが現実に起こりうるから怖い。 もし、月星人とやらがいたとしても俺たちの目の前に現れるのだけは御免こうむりたい。 ハルヒが家に帰るのを見送って、長門(古泉)が話しかけてきた。 「今日は一度も閉鎖空間は出ませんでしたよ。 どうやら僕たちは最悪の事態を乗り切ったようですね」 そういうと俺にホテルの鍵を渡して長門(古泉)は帰っていった。 今日もこのホテルか。 まあいい。早く疲れを取って寝たい。 駅前の公園前の広場についたとき、 隣にいるのは朝比奈さん(長門)だけとなった。 別れ際に朝比奈さん(長門)に確認した。 「長門、明日のいつぐらいになれば元に戻せるんだったっけ?」 「明日の午前6時12分48秒が来ればわたしの情報操作基礎分野と物質転換分野の能力はほぼ完全に修復する。 わたしたちの体に乗り移った情報と機能を全て元の肉体へ転送する。 それを用いればわたしたちは全てを元に戻すことが出来る」 「ってことは明日起きたら俺は自分の家で目を覚ますってことか。 じゃあ、その時間がきたらすぐに戻しておいてくれよな」 朝比奈さん(長門)は小さくコクリと頷いた。 俺は今日も長門(古泉)指定のビジネスホテルで一夜を過ごした。 今日は楽しかった。 ただ、楽しんでいただけだった気がする。 でもこれでよかったんだろう。 そしてやっと古泉の体とおさらば出来る。 短い間だったがご苦労さん。 二度とこんなことは起きないことを願っているよ。 明日になれば俺は自分の部屋で目覚めることだろう。 そしていつもの俺の生活が待っているのだ。 ───… 「うぅ……」 俺は窓から入る強い日差しで目が覚めた。 ホテルの一室にいた。 手元の時計を見ると時間は午前7時を指していた。 いつもならもう一寝入りするところかもしれないが、 俺はそこに一つの疑問を感じていた。 「おいおい……」 なぜ俺はホテルにいるんだ? 急いで洗面所に行き、鏡の前に立つ。 「長門……どういうことだ」 鏡の中に古泉一樹のしょぼくれた顔があった。 朝比奈さん(長門)が言っていた能力の制限は9月12日の午前6時12分に切れるはずだ。 もうその時間をとっくに過ぎている。 まさか朝比奈さん(長門)がまだ寝ているとかそんなオチじゃあるまいな。 どちらにしてもそろそろ俺たちを元に戻してもらわないと今日という一日が始まってしまうんだが。 朝比奈さん(長門)の携帯に電話したが繋がらない。 いつもならすぐに取るくせに。 もしかしたら長門に何かあったのかもしれない。 嫌な予感が頭の中をよぎる。 このホテルは長門のマンションに程近い。 急いで着替えて長門のマンションへ直行した。 オートロックの扉の前で708号に呼びかける。 すぐにプツッという音がして相手に繋がった。 「………」 「長門! 起きてるのか? どうして俺たちがこのままなんだ?」 「………」 「もうお前の言ってた時間は過ぎただろ? もし忘れてたのならすぐに俺たちを元の体に戻してくれ」 「………」 相変わらず朝比奈さん(長門)からの返事は無い。 まさか……… 「長門……まさか元に戻せなくなったとかいう話は無いよな? あの0.0004%がまさに現実になったとかそんなバカなことをいうわけじゃないよな?」 「………」 しばらく無言の空気が流れたあと、 ついに長門の部屋との通話プツッという音と共に切れた。 それ以降何度長門の部屋の番号を押しても繋がらなかった。 どうなってるんだよ長門! お前のその態度は明らかにそれを肯定してるみたいじゃないか! 昨日の話はなんだったんだ。 こうなったら最終手段だ。……早いな最終手段。 幸い今の時間は朝の通勤に出かける人が少なくない。 すぐにサラリーマンらしき中年男性が扉を開けて出てきた。 まるで互いにここの住人であるかのように軽く会釈し、 閉まりそうになった扉にすばやく足を突っ込みストッパー代わりにした。 俺ももうハルヒのことをとやかく言えないな。 708号室の扉は固く閉ざされていた。 明らかにここにいるくせにインターホンを押しても長門は出てこなかった。 何度も扉にこぶしをドンドンと叩きつける。 「長門! 開けてくれ! いるんだろ!?」 ドアを叩きながら大きく叫ぶ。 そのうちに隣の住人が出てきてこちらをじろじろと見てきた。 こんなことに構ってはいられない。 「長門! 長門!」 こぶしが赤く染まり、少し皮がむけてきたところで ようやくカチャリという音がして小さく扉が開いた。 「……入って」 朝比奈さん(長門)がうつむき加減で俺を部屋の中へと誘導した。 「長門、これはいったいどういうことなんだ? なんで俺がまだ古泉のままなんだ。 お前にしてもそうだ。朝比奈さんになったままじゃないか。 昨日約束しただろ? 時間がきたらすぐに元に戻すって。 本当に俺たちを元に戻すことが出来なくなったのか?」 朝比奈さん(長門)は何も答えず、無言のまま奥の部屋へと進んでいく。 後をついて行きながらも、俺はさっきから目のやり場に困っていた。 朝比奈さん(長門)はなんと昨日の夜と同じバニー姿だった。 しかもきちんとウサギ耳まで頭に乗っけている。 よっぽどこの服を気に入ったのか、 いや、もしかしたらただ単に昨日から着替えていないだけかもしれない。 それもそれでどうかと思うが。 俺はリビングのコタツ机の前に座った。 バニー服の朝比奈さん(長門)は台所から持ってきた急須で茶碗にお茶を注いで俺の前に差し出した。 俺はお茶には手をつけず朝比奈さん(長門)の答えを待った。 しばらくして、朝比奈さん(長門)はゆっくりと話し出した。 「朝比奈みくるから来るエラーの蓄積量については予想される範囲内で収まった。 制限されていたわたしの能力は同期に関するごく一部の能力を除いてほぼ完全に修復した。 わたしたちを元に戻すことは可能」 よかった……。 元に戻ることはできるのだそうだ。 この朝比奈さん(長門)が言うんだからそれは嘘では無いだろう。 だがそれでも元に戻そうとしないのは朝比奈さん(長門)の意思であるのに相違ない。 いったいなぜ? 「元に戻すことは出来る。 ただし、もし元に戻すとこれから先、 わたしの身に起こる異常事態に私自身が対処することが不可能になる」 「異常事態?」 「わたし内部に今膨大なエラーが蓄積された状態になっている。 12月18日にこれらが引き金となって異常動作を引き起こすことが確実となっている」 これから先に起こる自分の異常動作まで知っているのか。 しかも日付まできちんとわかっているらしい。 「わたしのこの異常動作により、あなたは元よりこの世界の全ての事象に多大な影響を及ぼすだろう。 特にあなたは世界でただ一人その時空改変から取り残された者として、 その時空改変の修正を行わなければならない」 俺だけ取り残される時空改変? しかも俺がそれを直さなければいけないというのだから、 全く想像もできない。 長門の力も借りずにどうやってそんな時空改変とやらを行えというのだ。 俺にそんな力は無いぞ。 「それはいったいどんな出来事なんだ?」 「詳しくは説明できない。 その時代のわたしには同期できないので詳細は不明。 説明したところであなたの記憶を消去しなくてはならない。 なぜならこれはこの世界における不可避な規定事項であるから。 たとえ今消去しなくてもいずれ異常動作を引き起こしたわたしにより、 あなたの記憶から消去されるであろう」 長門は人の記憶もあっさりと消したりできる存在だったのか。 相変わらず恐ろしい能力の持ち主だ。 「その異常動作はすでに未来からの情報により知りえていたが、 どのような原因で引き起こされるのかは不明だった。 過去それについての回避行動が、 考えられる全ての原因に対してさまざまな方法で施されていた。 しかしどのような方法を用いてもその異常動作を回避するに至らなかった。 なぜならそもそもその異常動作が引き起こされる可能性すら見つけ出すことが出来なかったから」 つまり長門はだいぶ前から未来との通信で異常動作が起こることに気づいていて、 それではまずいと思い、いろいろと考えてきたわけか。 でも未来でそうなるのならどうやっても同じ結果にしかならないんじゃないのか? 「わたしがこの4日間、能力に制限が設けられていたのも実はこの回避行動の一環。 過去の自分によりそのように制限されていたからであった。 あの9月8日、涼宮ハルヒの力によってこの改変が行われたときに、 9月12日までの4日間朝比奈みくるとなって過ごさなければならないように、 自動的に能力を制限するよう時限プログラムが施されていた。 先ほど制限の解除と共にその記憶が蘇った」 なんだって? 長門は自分の力を自分で制限していたというのか。 「朝比奈みくるの姿になることで蓄積されるエラーの中に、 異常動作を回避する可能性を見出していたから。 そして今一つの結論を得るに至った。 いまのわたしはこの朝比奈みくるの姿のままであれば、 蓄積されたエラーが引き金となって異常動作を起こしたくても起こせない。 情報統合思念体との同期による連絡が直接できないというこの状態では、 わたしの能力に限界があるから」 朝比奈さん(長門)は俺から視線を離さずまっすぐと前を向いて話し続けた。 「だがわたしはこの体において能力の制限を受けていたことによって、 逆に本来持つべきではない知識を得た。 それは情報統合思念体より独立することによる可能性。 それによって逆にこれから先のわたしの異常動作はほぼ確実なものとなった。 なぜならわたしは情報統合思念体より独立して行動を起こし、 世界を改変する方法を発見してしまったから。 つまり、今回の騒動こそがわたしの中に積み重ねられていたエラーの引き金となって、 12月18日の異常動作を引き起こすに至る直接的な原因となった。 そしていまが最後の分岐点に来ていることに気づいた」 つまりその12月18日の異常動作を避けようとして逆にそれが避けられなくなったって訳か。 まるで急に道路に飛び出してきて車の目の前で動かなくなるネコのような間の抜けた話だ。 「だが朝比奈みくるによりもたらされた影響により、 わたしの決断がどちらを選んでいいものか揺らいでいる。 世界を元に戻すべきか、それとも元に戻さず12月18日のエラーを回避するべきか」 「なあ、長門……。 朝比奈から受けたその影響ってのは具体的にどんなものなんだ?」 「……朝比奈みくるの中に内存する、 異性としてのあなたに対する気持ち」 一瞬頭の中が凍りついた。 朝比奈さんが俺をいったいどんな気持ちで見ているか知らないが、 あの冷静な長門がここまで混乱を覚えるほどの気持ちを俺に対して抱いているというのだろうか。 しかもその中に異性として俺を意識している部分があると……。 これは非常に気になるところだ。 「あなたに選んで欲しい。 危険を犯してもこの世界を完全に元の姿に戻すか、 あるいはこのままにしてわたしの異常事態を回避するか」 朝比奈さん(長門)が俺に何かを委ねるような視線を送ってくる。 「長門……そんなもの迷うことは無いんだ。 俺や古泉や朝比奈さんは自分の体を持って生きてきた人間なんだ。 長門にはあまり人間体に対する執着はそんなに無いかもしれないが、 俺たちは自分の体というものを持っているんだ。 それは俺たち人間にとっては唯一のものなんだ」 「あなたはこの異常動作の危険性がどれほどのものか知らない。 あなたはその事態に陥ったとききっと後悔……」 「長門!」 俺は朝比奈さん(長門)の言葉をさえぎった。 「お前の言い分はわかった。 でも俺は本当の自分に戻りたいんだ。 朝比奈さんの体だってお前のものじゃない。 古泉だってそうだ。 お前や俺の一存で勝手に決めていいことではないんだ。 それにお前がどんな異常動作を起こすのかは知らないが、 規定事項だってわかっているなら元に戻すしかないじゃないか。 どうせ避けられない事態なんだろ? それはわかっていることじゃないか。 任せとけ。 そのときが来たら俺がなんとかしてやる。 異常動作? 世界改変? なんでもこいだ。 俺が一人で背負わなければならないならその運命さえも背負ってやる」 でもそれは違うんじゃないか? お前は言い訳してるんじゃないのか? 本当はお前は元の姿に戻りたくないんじゃないか? 朝比奈さんの姿が実は相当気に入ってしまったとか言うんじゃないだろうな。 朝比奈さん(長門)は頭の上に乗せたウサギの耳を指でつまんでまた離した。 ピョコンとウサギ耳が頭の上でかわいく揺れる。 「……わからない。 でもわたし個人は元の自分の容姿に戻りたく思っていない」 やっと長門が少し素直な一面を見せた。 自分個人の意見を長門は許されていないのだろうか。 こうやって会話して意思の疎通をするのが本当に疲れる。 「なんでそんなふうに思うんだ……? お前だって自分の体に戻りたかったはずじゃないのか? その体ではいろいろと不便は無いのか?」 一瞬朝比奈さん(長門)の目線が俺の方を向き、 また俺から目線を離してうつむきながら答えた。 「あなたがこの朝比奈みくるの容姿を好んでいるから」 な……なんだって? 俺が朝比奈さんのことが好きだから朝比奈さん(長門)は元に戻りたくないという。 それってつまり……つまり…… この朝比奈さん(長門)は俺に好まれたいと望んでいるわけで…… ……これってある意味遠まわしな告白ってやつか? 俺はこの朝比奈さん(長門)から朝比奈さんと長門、一度に二人分の告白を受けてしまった。 「長門……」 なぜか俺は朝比奈さん(長門)の顔が見れなくなっていた。 だからといって違うところに目をやろうとすると 朝比奈さん(長門)の大きく開いた胸元やふとももに目が奪われそうになる。 「えっと……なんだ。 そ、その……長門にはあのいつもの長門の姿の方が似合うんだよ。 読書好きな寡黙な少女っていう子ならあの姿の方が自然なんだ。 俺はあの長門の方が……そうだな…… わ、わりと好みなんだよ。うん! 俺は断然あっちの方の長門を推すぜ!」 精一杯の言い訳に聞こえるかもしれない。 実際俺は長門の意外な告白にかなり戸惑っていた。 たしかに俺は朝比奈さんのことが好きといえば好きかもしれない。 でも長門のことだって、ハルヒのことだって好きといえば好きなんだ。 あくまでLOVEという意味ではなくLIKEと言う意味でここは考えている。 ああ、俺はいつまでも優柔不断でこんなときになんと答えたらいいかよくわからないバカ男なんだ。 自分の本当の気持ちには気づいているくせにとことん正直になれないんだよ、俺ってヤツは。 長門がうなづいて少しだけ残念そうに答えた。 「そう。 わかった……元に戻す。 しかし、この会話記憶は全て消去する」 「え……!?ちょ…」 長門の声が微かに聞こえたかと思った瞬間、 気づくと俺はベッドの上にいた。 目の前にはよく見慣れた天井。 近くの壁に貼られたポスターは俺が張ったものだ。 そこは俺の部屋だった。 さっきまで俺は長門の部屋にいたような気がするが気のせいだったのだろうか。 起きる寸前朝比奈さん(長門)の声が聞こえたような……。 いや、気のせいだろう。 きっとそんな夢を見ていただけに過ぎない。 現にもう、その夢の内容なんか覚えちゃいないしさ。 今は俺はそんなことより重要なことがあるだろう。 急いで階段を降りて洗面台へと向かう。 眠たそうにハブラシを咥えている妹をどかして、 鏡の正面に立つ。 「ふぇ……ふぉんふんふぉうはひふぁあほ?(キョンくんどうかしたの?)」 ああ、4日ぶりに鏡の中のこの顔に会うことが出来た。 ついにようやく俺は俺の体を取り戻すことができたのだった。 ~~エピローグ~~ 「なあ、あいつらってできてるのか?」 ようやく訪れた俺にとってのいつもの昼休みの時間。 谷口はじーっと2つ隣の席の二人を恨めしそうに横目で見ていた。 後藤と葉山が仲良く1つの机で仲良く弁当を広げていた。 「ああ、あの二人……最近付き合いだしたんだよね。 元々葉山さんは後藤のこと好きだったっみたいだしお似合いのカップルだと思うよ」 そっけなく答えるが、国木田はこういう情報にはやたらと詳しい。 実は谷口以上に男女交際には憧れを抱いているのかもしれない。 それとは対照的に俺たちは男三人で仲良く1つの机を囲んで弁当を食っていた。 昨日までの古泉(俺)のハーレム状態が嘘のようだ。 実際嘘でもなんでもなく今日も古泉はあのハーレムを形成していることだろう。 「はぁ……俺もハーレムとはいかないが、せめてあの二年の朝比奈さんと一緒に弁当を囲んでみたいぜ。 一生に一度でいいからさぁ……」 谷口が弁当の玉子焼きを箸で突き刺して空中でクルクルと回していた。 谷口は知らない。 つい昨日まで、俺の中身がその朝比奈さんであったことを。 よかったな。お前の一生に一度のお願いはもうすでに叶っているぞ。 「ところでキョン。お前は涼宮とは一緒にメシ食ったりしないのか?」 「なんで俺があの女と一緒にメシを食わなきゃならん」 だいいちアイツはほぼ毎日食堂でメシを食う。 俺は弁当組だから一緒に昼飯を食ったことはない。 ……いや、朝比奈さんが俺になった初日に一緒に食堂で食ってたらしいが俺の記憶にはないことだ。 「キョンの俺って一人称……なんだか久しぶりに聞いた気がする。 ここんところずっと女っぽかったのに」 国木田の的確な指摘には何も答えず、 さっさとメシを食い終えた俺は弁当を鞄の中に突っ込み教室を出た。 廊下である人物とすれ違った。 「委員長……」 思わず口に出してしまった。 俺は今もう古泉の姿ではない。 月見パーティーのときに会っているから全くの初対面ではないが、 いきなり声をかけて相手が思い出せるほどの仲とはいえなかった。 「あら。昨日はありがとね」 なぜか頭を下げられる。 俺が何かお礼を言われるようなことをしたのかよくわからない。 むしろこちらこそお礼がしたいところなのだ。 俺は頭を下げてその姿を見送っていた。 食堂にハルヒの姿を見つけた。 ハルヒは大盛りの日替わり定食とカツどんとカレーにざるそばという、 見ているだけで胸焼けのしそうな組み合わせの昼飯をものすごい勢いでかっこんでいる。 「ふぁ、ひょん(キョン)。はんはもほうははふほふ?(あんたも今日は学食?)」 いや、もう食った。 それよりも物を食いながらしゃべるな。汚い。 「なによ。あんたに分けてあげる分は無いわよ」 ああ、そうしてくれ。 ハルヒはあれだけあった目の前の食事を綺麗に平らげて両手を合わせた。 「ふぅ、ごちそうさま」 だがまだ食い足りないのか食堂の券売機の方を見て買い足しに行こうか迷っているようなそぶりである。 本当にこいつがダイエットなんて考えたのか信じられないような様相だ。 「ハルヒ、何事も腹八分がいいと言うだろ」 「じゃあ、もう少し食べてもいいって訳ね」 ハルヒは嬉しそうに笑うと券売機の方へと向かっていった。 まだ八分に到達していないってのか。 やれやれ。 放課後、部室に入ると珍しく古泉が一人で本を読んでいた。 「やあこんにちは。 今回あなたにはだいぶ助けていただきました。 おかげでこうして元の姿を取り戻せました。 心からお礼申し上げますよ」 俺はこの前こいつの体に入っていたんだなぁと、 なぜか懐かしさを感じながらパイプ椅子を組んだ。 「なあ、古泉。長門になってみていつもと一番変わった点は何だった?」 「そうですねえ……スカートがスースーするってことくらいですよ。 せっかくの貴重な体験だったんですけどそれを楽しむような余裕はありませんでしたよ」 ハハッとわざとらしくハニカミながら答えて笑う古泉の姿を見て、 ようやく俺が古泉でなくなったということを実感できた。 「お前になってて感じたんだが、委員長はお前のことが好きなんじゃないか? なんかそんな感じだったが」 「ああ、僕の後ろの席にいるあの子のことですか? まさか……彼女は僕に好意など抱いていませんよ」 「なぜそんなことが言い切れる。 毎日お前の分の弁当を用意してくるし、 わざわざお月見パーティーにまで招待してくれたし、 俺が忘れた宿題だって見せてくれたぞ。 何の好意も持たない人間がこうまでするか」 「もしそう感じたのなら中身を好きになったのかもしれませんよ。フフ……」 んなわけあるか。 初日からあんな態度だったわい。 「じゃあ、彼女はもしかして『機関』の人間か?」 「ほほう……どうしてそんなことを考えるのですか?」 そうでなければおかしいだろう。お前が授業中に呆けていたりするようなキャラだったらわかるが。 「ふふふ、残念ながら違いますよ。彼女は『機関』の人間ではありません。 ですが『機関』とは全くの無関係とは言えないかもしれませんね 『機関』の知り合いの知り合いというだけで莫大な数の人間がその範囲内に入るのですから。 それだけ僕の所属している『機関』は無関係という関係はありえないくらい巨大な包囲網を持っているのですよ 本当のことはこれ以上言えません。でもどうしても知りたいですか?」 どうせ聞いても本当のことは教えてくれないんだろ。だからあえてこれ以上は追求しないよ。 「たとえば……そうですね。こんな風には考えられなくは無いですか? ……昨日の日付は覚えてますか?」 「9月11日だろ」 「それです。その日付がどんな意味のある日であるかはあなたもよくご存知のはずです」 9・11……もしかして……。 数年前、あのアメリカで起こった歴史的出来事の日。 おそらくこれから先の現代史の歴史の教科書には深々とその名が刻まれるであろうあの事件の起こった日が、 偶然にも昨日の日付とぴったりと同じであった。 「その日がたまたま世界最後の日と重なるということも考えられなくはありませんでした。 涼宮さんの考えそうなストーリーですから」 「それで委員長にも協力を要請したってわけか。 そうやって俺をうまくハルヒに誘導させようとした、と」 「いえ、別にそうとは言ってません。 もしかしたらそんな風な考え方もできなくはないのでは?と言いたかっただけなのですよ。 そう簡単に僕が本当のことを言うと思いましたか? どっちにしてもお月見パーティーが今回の解決のきっかけにはなりませんでしたしね」 明らかに関与を認めているようなくせしてきっちり最後にしらばっくれやがった。 まあ、その方が古泉らしくていいだろう。 それにしても、さっきから古泉が読んでいるハードカバーが妙に気になる。 「これですか?いえね、そこの本棚に置いたあったのですが、 読んでみるとこれが意外に面白いんですよ。」 すっと本を持ち上げてタイトルを俺に見せた。 睡眠薬のようなカタカナがゴシック体で踊っていた。 ああ……知っている。 これはSOS団創立当時に長門が俺に読めと渡してきたSF長編だ。 俺も2週間かけてそれを読んだが、 結局のところその本の真髄は全く理解することが出来なかった。 少なくとも高校生にオススメできる本ではないと思う。 「なあ、その本は特にどの辺が面白いんだ?」 古泉はちょっとだけ考えるような仕草をして答えた。 「う~ん、そうですねぇ。よくよく考えると変なお話なんですよね。 文章は説明不足でわかりにくいですし、話の構成も下手ですね。 あとこういうジャンルのお話は、僕はあまり好みとは言えないんですけどね。 でも読んでいると不思議と心が踊るといいますか…… 懐かしい気持ちにさせてくれたりして。 そういえばなんで面白いんでしょうかね。 まあ、しいて一言でいえば……」 またしばらく悩んで一言だけ答えた。 「……ユニーク」 ──数日後。 いつものように文芸部の部室に集まった5人は特にすることもなくただ個人個人の好きな時間を過ごしていた。 朝比奈さんがいつものようにお茶を入れてくれたお茶を飲む。 いつものあの朝比奈さんの味がする。 部室に飾られているハンガーラック。そこには今まで朝比奈さんが着た衣装の数々が並べられている。 そこに新たにブレザーが加わっていた。 そういえばあの入れ替え初日、俺たち四人が長門の家に集まったとき 『機関』が朝比奈さんに渡したブレザーが余っていたのだ。 もしかしたらいつかまた着てみる機会があれば着てみたいという気持ちがどこかにあるのだろうか。 朝比奈さんの方を見つめつつ俺は一つの懸案事項に頭を悩ませていた。 彼女は俺の秘密を知っている。 俺の秘密、それは男の秘密。 ベッドの下のダンボールの底の方に大事に隠されているビデオや本のことだ。 俺が元の体に戻ったその日、 それら全てが姿をくらましている事に気づいてしまった。 もしかしたら親が見つけたのかもしれないが、 うちの親だったらそのことで必ず俺に説教してくるはずだ。 どちらにしても朝比奈さんは俺の秘密を知ってしまったはずだ。 しかし朝比奈さんの素振りはそんなことはまるでなかったかのように俺に接している。 本当に俺のあの宝物を見たのか、それとも知らないのか。 なんとしても真相を知りたいがもちろん朝比奈さんにそんなことを聞くことなど出来ない。 一生朝比奈さんの胸のうちに仕舞っていてくれることを祈る。 「ようやく1キロ減ったわ。なんで体重って全然減らないのかしら」 結局ハルヒのダイエットは完全にやめさせることは出来なかった。 だが俺は一つだけ条件をつけるようにハルヒに約束させたのだ。 それは、隠れてダイエットをしないこと。 もしダイエットをしたいのならみんなで協力して痩せていこうという話だったのだ。 ハルヒも馬鹿正直なところがあるのか、 それとも自分の努力を認めて欲しいのか、 1キロ太っただの痩せただのという話をいちいち俺たちに聞かせてくるようになった。 体重の話題が普通の話題になったおかげで部室内では体重の話はそんなに禁句ではなくなった。 それにしてもいつもあれだけ昼間食っていてよく1キロも痩せるもんだ。 こいつは一日にいったいどれだけのカロリーを消費しているのだろうか。 「みくるちゃんはこの前量ったときは前よりさらに2キロも太ってたのよね。 だからみくるちゃんまであと1キロよ!」 「ちょ、ちょっとなんでバラすんですか~? 絶対言わないって約束したのにぃ~。 それにもうわたしそんなに太ってないです~」 「な、なあんですってー! じゃあ今何キロなのよ! 教えなさい! あ、こら逃げないの! ちょっとキョン! みくるちゃんを抑えて! そこの体重計で量るから!」 「ふぇぇ~ん」 たしかに朝比奈さんが元に戻ったときは少しふっくらしていた。 もちろん本物の朝比奈さんには責任はない。 この前の大食い大会もそうだが、だんご300個の早食いをしたりしたのは長門の仕業なのだ。 それに長門のことだから普段の食事の量だってかなり多めになっていたのではないか? たったの4日で2キロも太るのはなかなか出来ることじゃない。 長門の方を見ると自分のせいじゃないとばかりにひたすらに無言で本を読み耽っていた。 今回の騒動でまた最後は長門の力に頼ってしまったな。 元に戻れたのはお前のおかげだからな。 元に戻せないかもと言われたときはひやひやしたが 結局なんでもなかったみたいだしな。 いや、よかったよかった。 窓の外をみると外の景色が少し赤みを帯びてきていた。 この街にも本格的に秋が訪れようとしていた。 「あれ? おかしいわね。たしかに昨日冷蔵庫に入れたはずなんだけど……」 ハルヒはさきほどから部室の冷蔵庫の中の物を掻き出しながら『あるもの』を探していた。 その『あるもの』は卵、牛乳、砂糖、カラメルなどをたっぷりと含んだ あま~く高カロリーなお菓子である。 「ちょっとぉ、どうしてないのよ! たしかにこの中に置いてたはずなのに!」 ハルヒのこの宝探しは徒労に終わるに違いない。 なんせお前の探しているものは俺の胃の中にある。 ハルヒが手を止めてじろっとこちらを睨んでいる。 むしろ感謝して欲しいぜ。 少しはお前のダイエットに協力してやったんだからな。 「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 ──涼宮ハルヒの中秋── ──完──
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1676.html
【注意事項】 このSSは『Fate stay/night』というPCゲームとのクロスになってます。 基本的には設定を借りただけで、ハルヒのキャラ以外は登場しません。 涼宮ハルヒの聖杯~第1章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第2章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第3章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第4章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第5章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第6章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第7章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第8章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第9章~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3330.html
「今日はこれで終わり! みんな解散よ!」 窓から入ってくる夕焼けに染められたわけではないだろうが、ハルヒの黄色く元気の良い声が部室内に轟く。 この一言で、今日も変わったこともなく、俺は古泉とボードゲームに興じ、朝比奈さんはメイドコスプレで居眠り、 長門は部屋の隅で考える人読書バージョン状態を貫き、年中無休のSOS団の一日が終わった。 正直ここ最近は平凡すぎる日常で拍子抜け以上に退屈感すら感じてしまっているのだが、まあ実際に事件が起これば二度とご免だと思うことは確実であるからして、とりあえずこの凡庸な今日という一日の終了に感謝しておくべき事だろう。 俺たちは着替えをするからと朝比奈さんを残しつつ、ハルヒを先頭に部室から出ていく。どのみち、朝比奈さんとは昇降口で合流し、SOS団で赤く染まったハイキング下校をするけどな。 下駄箱に向かう間、ハルヒは何やら熱心に長門に向かって語りかけている。 それをこちらに注意を向けていないと判断したのか、古泉が鼻息をぶつけるぐらいに顔を急接近させ、 「いやあ、今日も平穏無事に終わりましたね。こうも何もないと返って不安になるほどですよ。 まだまだあの神人狩りに明け暮れていたときのくせが抜けていないようでして」 「ないことに越したことはないね。犬が妙な病気になったことを相談されたりされるぐらいならちょうど良い暇つぶしにはなるが、事と次第によってはとんでもない大事件の場合もあるからな」 俺は古泉と数歩距離を取りつつ返す。古泉はくくっと苦笑を浮かべると、 「何かが起こった方が楽しい。だけど、その影響範囲を含めた規模や自分にとって利益不利益どちらになるかわからないなら、いっそどちらとも起きない方が良いというわけですか。実にあなたらしい考え方と思いますよ。 恐らく涼宮さんとは正反対の思考パターンですが」 「あいつの場合は、自分にとって楽しいことだけ起こればいいと思っているんだろ。世の中そんなに甘くはねぇよ。 ま、命を狙われたり世界を改変されて孤立したりしたことがないんだから、当然っちゃ当然だな」 大抵、人間ってモノはどこかで何かが起こることを期待しているもんだ。俺だって昔は宇宙人とか未来人とか超能力者がいてくれればいいなぁとか、映画並みのスペクタクルが起きたりしないかと思っていたしな。ただ、実際に目の前でそんなことが起これば考え方も変わる。少なくとも、もう俺はタヒチのリゾートにあるような透明度の高い純真な期待感なんて持たないだろう。 そんな俺に古泉はさらに苦笑いして、 「おや、ひょっとして今まで多くのことを経験しすぎて、一生分のインパクトを消化してしまったんですか? 前途ある十代の若者にあるまじき枯れっぷりな考え方ですよ」 うるせえな。一度ヒマラヤの頂上に届きかねないびっくり仰天事やマリアナ海溝以上に深いどん底に突き落とされる経験しちまうと、何だかんだで海抜ゼロメートルプラスマイナス数百程度が一番いいと思い知らされただけだ。 そんな話をしている間にようやく下駄箱に到着だ。ハルヒの長門に対する語りかけは、もうヒトラーの演説、テンション最高潮時な演説と化している。もっとも当の長門は相づちを打つように数ミリだけ頭を上下させるだけなんだが。 しかし、そんな自分に酔っているような話し方をしながらも、ハルヒはちゃっちゃと下駄箱から靴を取り出し下校の準備を進める。全く口と身体が独立して稼働しているんじゃないか? もう一つの脳はどこにある。やっぱりあそこか。 「遅れちゃってごめんなさい」 背後から可憐ボイスが背中にぶつかる。振り返れば、いそいそと北高セーラ服に着替えた朝比奈さんが小走りに現れた。 背後にある窓から夕日が入り、おおなんと神々しいお姿よ。 俺がそんな神秘的情景を教会で奇跡がおきるのを目撃した神父の如く感涙して(していないが)いたところへ、 「ほらっキョン! なにぼーっとしてんのよ! とっとと靴履いて帰るわよ!」 いつの間にやら演説を停止したハルヒ団長様からの声で、幻想的光景から強引に引きずり出された。 全くもうちょっと堪能させてくれよな。まあ、当の朝比奈さんもとっとと俺を追い越して、靴をはき始めているから俺も続くかね。 そんなわけで俺は自分の下駄箱を開けて―― 「…………」 すぐに気がついた。俺の靴の上に一枚の紙切れ――手紙じゃない。本当にただの一枚紙である――があることに。 朝比奈さん(大)の仕業か? またいつもの指令書か…… しかし、違うことにすぐ気がつく。朝比奈さん(大)はもっとファンシーで可愛らしくいい臭いがしそうな封筒入りを使うが、今ここにあるのはぴらぴらの紙一枚。こんな無愛想なもので送りつけるような人じゃない。それに書いてある内容が 『あと30分以内に●●町の公園に来なさい。一人で』 とまあ何とも一方的な内容である。しかも命令口調。まるでハルヒからの電話連絡みたいだ。 ふと、これはハルヒが書いて何か俺に対してイタズラでもしようとしているのでは?と思ったが、 「なーにやってんのよ! さっさとしなさい!」 当のハルヒは俺につばを飛ばして急かしてきている。大体、こんな手紙なんていう回りくどい手段をあいつがとるはずもなく、誰もいなくなったところで俺のネクタイ引っ張って行きたいところに走り出すだろうな。 じゃあ、これはなんだ? ラブレターの可能性は否定できないのも事実。せっかくだから行ってみるのも悪くないか。 時計を確認する。ここから指定された場所まではゆっくり歩いて30分もかからない。帰りに道に寄ってみるかね。 俺は他の団員に見つからないように、その紙をポケットにねじ込んだ。 ◇◇◇◇ さて、下校途中に他の連中と別れた俺は、とっとと目的の公園に向かう。初めて行く場所だったので、 その辺りにあった看板の地図を見ながら向かった。 が。 「……全く」 おれは嘆息する。さっきから背後をハルヒたちが付けてきているからだ。どうやら、あの紙をもらってからの俺の挙動が不審だとハルヒレーダーが捕らえていたらしい。相変わらずの動物並みの嗅覚だよ。 しかし、別に俺はやましいことをしているわけでもないんだから、このまま放っておいてもいいか。 俺はそう割り切ると、俺は背後のストーカー集団を無視して目的地に向かった。 ◇◇◇◇ 俺はようやく目的地にたどり着いた。時計を見ると、あの紙切れを読んでから20分程度。指定された時間には間に合っている。 平日夕方でぼちぼち日が落ちつつあるためか、指定された公園には人一人おらず、閑散とした静けさに覆われていた。 どこからともなく流れてくる夕飯の香りが俺の空腹感を刺激する。 ふと、背後を突けていた連中がいなくなっていることに気が付いた。なんだ? 捲いたつもりはなかったから、 途中でハルヒが尾行に飽きたのか? 俺はそんなことを考えながら、あの紙切れをポケットから取り出して―― この時、初めて俺はここに何の警戒心も持たずのうのうとやってきてしまったことを後悔した。見れば、その紙の文面が 『付けていた連中はいないわよ。邪魔だったから追っ払っておいたわ』 そう変わっていた――ちょっと待て。この紙はずっと俺のポケットに入ったままになっていたはずだ。 それを書き換えるなんていう芸当ができるのはごくごく限られた特殊能力を持つものしかあり得ない。 つまり、俺を呼び出した奴は一般人ではなく、宇宙人・未来人・超能力者――あるいはそれに類する奴って事だ。 ちっ。これで呼び出したのが朝倉みたいな奴だったら、洒落にならんぞ。 すぐに携帯電話を取り出し、とりあえず古泉に―― しかし、時すでに遅し。俺の周りの景色が突然色反転を起こしたかのようになり、次第にぐるぐると回転を始める。 やがて、俺の意識も落下するように闇に落ちていった…… ◇◇◇◇ 「いて!」 唐突に叩きつけられた感触に、俺は苦痛の悲鳴を上げた。まるで背中から落ちたような痛みが全身に走り、 神経を伝って身体を振るわせる。 そんな中でも、俺は必死に状況を探ろうと密着している地面を手でさすった。切れ目のようなものが規則的に感じられ、コンクリートや鉄ではなくそれが木でできている感触が伝わってくる。 ようやく通り過ぎた痛みの嵐に合わせて、俺は閉じたままだった目をゆっくりと開けた。まず一面に広がる教室の床が視界を覆う。同時についさっきまで俺に浴びせられていた夕日の灯火が全くなくなっていることに気が付いた。 俺を月明かりでもない何かの弱い光を包み込んでいる。その光のせいか、俺のいる部屋の中は灰色に変色させられ―― 気が付いた。この色合い、以前に見たことがある。あのハルヒが作り出す閉鎖空間と同じものだ。 俺は痛みも忘れ、飛び上がるように立ち上がり、辺りを見回した。 出入り口・黒板・窓の位置。俺がいるのは文芸部室――SOS団の根城と同じ構成の狭い部屋だった。 ただし、ハルヒの持ち込んだ大量のものは一つとして存在せず、空き部屋の状態だった。ただ一つ、見慣れた団長席と同じように窓の前に置かれた一つの机と、その上に背中を向けてあぐらをかいて座っている一人の人間を除いて。 「……誰だ?」 自分のでも驚くほど落ち着いた声でその人物に語りかける。窓から見える景色は、薄暗い闇に包まれた灰色の世界だった。 やはりここは閉鎖空間なのか? しかし、誰だと語りかけた割には、俺はその机の上に座っている人物に見覚えがあった。いや、そんな曖昧な表現ではダメか。 北高のセーラ服に身を包み、肩に掛かる程度の髪の長さ、そして、あのトレードマークとも入れるリボンつきのカチューシャ。 該当する人間はたった一人しかいない。 こちらの呼びかけに完全に無視したそいつに、俺は再度声をかける。 「俺を呼び出したのはお前なのか? ここはどこだ?」 「黙りなさい」 ドスのきいた声。しかし、殺気に満ちたそれでも、俺はその声を知っていた。 ………… ………… ………… 長らく続く沈黙。俺はどう動くべきか脳細胞をフル回転させていたが、さきに目の前の女がそれを打ち破った。 「――よしっ!」 そう彼女は威勢のいい声を放つと、机から身軽に飛び降りてこちらをやってきた。そして、問答無用と言わんばかりに俺のネクタイをつかむと、 「成功したわ。奴らにも気が付かれていない。今回はちょっと難易度が高かったから、失敗するかもと思っていたけど、案外簡単にいったわね。そういうわけで協力してもらうわよ」 おいちょっと待て。なにがそういうわけだ。その言葉には前後のつながりがなさすぎるぞ。 「そんなことはどうでもいいのよ。あんたはあたしの質問に答えれば良いだけ。簡単でしょ?」 「状況どころか、自分が一体全体どこにいるのかもわからんってのに、冷静な反応なんてできるわけねぇだろうが」 ぎりぎりとネクタイを締め上げてくるそいつに、俺は抗議の声を上げた。 だが、この時点で俺は確信を持った。今むちゃくちゃな態度で俺に接してきている人物。容姿・声・性格全て合わせて、完全無欠に涼宮ハルヒだった。ああ、こんな奴は世界中探してもこいつ以外一人もいないだろうから、 そっくりさんということはないだろう。 俺の目の前にいるハルヒは、すっとネクタイから手を離すと、腰に手を当てふんぞり返って、 「全く情けないわね。少しは骨があるかと思っていたけど、どっからどうみてもただの一般人じゃない」 「当たり前だ。今までそれは嫌というほど見せつけてきただろ」 俺の返した言葉に、ハルヒはふんと顔を背けると、 「あんたとは今日初めて合ったんだから、そんなことわかるわけないでしょ」 あのな、初対面の人間に一方的に問いつめるのはどうかと――ちょっと待て。なんだそりゃ、俺の記憶が正しければ、お前とはかれこれ一年以上の付き合いになるはずなんだが。しかも、クラス替えまでしてもしっかりと俺の後ろの席に座り続けているじゃないか。 「それはあんたの所のあたし。あたしはあんたなんて知らないし、こないだ平行時間軸階層の解析中に見つけるまで存在すら知らなかったわ」 このハルヒは淡々と語っているんだが、あいにく俺には何を言っているのかさっぱりだ。しかも、話がかみ合ってねえ。 このままぎゃーぎゃー言っても時間の無駄だろう。 俺は一旦話をリセットすべく両手を上げてそれを振ると、 「あー、とりあえず話がめちゃくちゃで訳がわからん。とにかく、まず俺がお前に質問させてくれ。 それで状況が把握できて納得もできたら、お前に協力してやることもやぶさかじゃない」 俺の言葉にハルヒはしばらくあごに手を当てて考えていたが、やがて大きくため息を吐くと、 「わかったわよ」 そう渋々承諾する。よし、とにかくボールはこっちが握った。まずは状況把握からだ。 真っ先に俺が聞いたのはこれである。 「お前は誰だ?」 俺の質問に、ハルヒはあきれ顔で、 「涼宮ハルヒよ。他の誰だって言うのよ」 「巧妙に化けた偽物って可能性もあるからな。俺の周りにはそんなことも平然とやってのけそうな連中でいっぱいだし」 「それじゃ、証明のしようがないじゃん。どうしろっていうのよ」 ハルヒの突っ込みに俺は返す言葉をなくす。確かに疑えばどうとでも疑えるのが、俺を取り巻く現在の環境だ。 となると、これ以上追求しても意味がない。それに俺の直感に頼る限り、今目の前にいるのはあのわがまま団長様と人格・容姿ともに完全に一致しているわけで、それを涼宮ハルヒという人間であると認識しても問題ないだろう。 だがしかし、先ほどの言い回しを見ていると、俺が知っている『涼宮ハルヒ』ではない。 「えー、聞きたいのはな、お前がハルヒであることは認めるが、俺の知っているハルヒじゃなさそうだって事だ。 なら俺のつたない脳を使って判断すると、ハルヒが二人いるって事になるんだが」 「そうよ」 そうよ、じゃねえよ。そこをきっちり説明してくれ。 「あー。あんたの頭に合わせて言うと、別の世界のあたしってことよ。平行世界って言葉ぐらい聞いたことあるでしょ? ここはあんたのいた世界とは似ているけど別の世界ってことよ」 簡単すぎてかえってわからんような。まあいい、いわゆる異世界人ってことにしておこう。このハルヒから見れば、俺の方が異世界人なんだろうが。 ……しかし、ついにでちまったか、異世界人。しかもよりにもよって別の世界のハルヒとはね。こいつは予想外だったぜ。 ここでふとハルヒが口をあんぐりと開けて呆然としているのが目に入った。 「ちょっと驚いたわ。随分あっさりと受け入れるのね」 「最初は本意じゃなかったが、いろいろ今までそういう突拍子もない話は聞かされまくったから、 いまさらここは異世界で自分は異世界人ですっていわれても、今更驚かねえよ。異世界人については今まで伏線もあったからな」 俺の言葉にハルヒは興味深そうに目を輝かせている。何だ? こいつも宇宙人・未来人・超能力者のたぐいを求めているのか? まあいい。俺は次の質問に移る。 「ここはどこだ?」 「時間平面の狭間よ」 ……何というか、ハルヒが真顔で朝比奈さんチックなことを言うと違和感がひどいな。それはさておき、それじゃわからん。 わかるように説明してくれ。 「何よ、そんなことぐらい直感でピンと来ないわけ? 呆れたわ。未知との遭遇体験に慣れているだけで、 肝心の理解能力は本当に凡人なのね。まあいいわ、ざっと説明すると、あたしが作った空間で誰も入って来れず、誰も認識できない場所。これくらいグレードを落とせばわかるでしょ」 いちいち鼻につく言い回しなのもハルヒ独特だよ。確かにわかりやすいが。って、なら俺が今ここにいるのは、 お前が招待したからってことなのか? 「そうよ。もっとも周りの人間に悟られずにやるのには、それなりに細工が必要だけどね」 なら次に聞くことは自然に出てくる。 「で、一体俺を何のためにここに連れてきたんだ? 何が目的だ?」 これが核心の部分になるだろう。自己紹介は終わった以上、次は目的についてだ。 ハルヒは待ってましたと言わんばかりに、にやりと笑みを浮かべ、 「それは今から説明してあげる。長くなるから、そこの椅子に座って聞きなさい」 そうハルヒは、また窓の前にある俺的に団長席の上に座る。そして、すっと手を挙げると、床から一つのパイプ椅子が浮かび上がってくる。 ここまでの話で大体予測していたが、このハルヒは普通じゃない。いや、確かに俺のよく知っているSOS団団長涼宮ハルヒも変態的神パワーを持ってはいたが、自覚していないため自由にそれを操ることはできない。しかし、この目の前にいるハルヒは自分の意思で長門レベルのことを今俺の目の前でやってのけたのだ。 やれやれ、これはちょっと異世界訪問という話で済みそうにない気がしてきた。 俺はハルヒの頼んでもないご厚意に甘えることにして、パイプ椅子に座る。 「さて……」 ハルヒはオホンと喉の調子を整えると、 「あんた、宇宙人の存在は信じる?」 このハルヒの言葉に何か懐かしいものを感じた。あの北高入学式のハルヒの自己紹介。ただ、いくつか欠けてはいるが。 俺は当然と手を挙げて、 「ああ信じるよ。少なくとも俺の世界ではごろごろ――とはいかないが、結構遭遇したしな」 「……情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースに?」 返されたハルヒの言葉に、俺は驚く。何だ、このハルヒは長門のパトロンのことを知っているのか? 「当然よ。あいつらの存在、そして、どれだけ危険な連中かもね。実質的にあたしの完全無欠な敵よ」 ――敵。ハルヒの口から放たれた声には明らかに敵意が混じっていた。 どういうことだ。俺が知っている限り、奴らは内部対立はあるとはいえ、主流派は黙ってハルヒを観察することにしていたはず。 あからさまな敵意を見せてはいないんだよ。 「何ですって……? まさか……いや……」 ハルヒは予想外と言わんばかりに思案顔に移行するが、軽く頭を振ると、 「まあいいわ。とにかく、あたしと情報統合思念体は対立関係にある。というよりも、情報統合思念体が一方的にあたしを敵視して排除しようとしているだけなんだけどね。こっちとしても、敵意さえ見せなければ別に相手にする気もないんだけどさ」 ハルヒはあきれ顔でふうっとため息を吐いた。 排除しようとしているとは、まるで俺の世界とは正反対の行動じゃないか。 「何で対立しているんだ? いや、どうして情報統合思念体はお前を排除しようとしているんだ?」 「細かいレベルでの理由は知らない。とにかくあたしの存在を勝手に危険と認識して、襲ってくるのよ。 それも狙うのはあたしだけじゃない。この星ごと消滅させようとするわ。そんなの許せるわけないじゃない」 「星……ごと?」 何だか話がSF侵略映画っぽくなってきたぞ。情報統合思念体が地球を攻撃するとは、まさにハリウッド映画。 ――ここでハルヒは思い出に浸るように天井に視線を向けると、 「三年前――いや、あんたのいた時間から見れば四年前か。その時、あたしは自分が持っている力に気が付いた。野球場に連れられていったあの日、自分の存在がどれだけちっぽけな存在であるか自覚したとたん、体内で何かが爆発したような感覚がわき起こり、この世の全ての存在・情報がどっとあたしの中に流れ込んできたのよ。当然、その中に情報統合思念体についてのこともあった」 ここで気が付く。さっきまで俺は灰色に染まった教室の中にいたはずなのに、いつの間にかまるで360度スクリーンの映画館のような状態になっていることに。そこには野球場の人数に圧倒されるハルヒ・電卓で野球場の人間が地球上でどのくらいのわりあいなのか計算するハルヒ・ブランコで物思いにふけるハルヒの姿が映し出される。 「きっとその時に向こう――情報統合思念体も気が付いたんでしょうね。あたしはその巨大な存在に触れてみようとした。 そのとたん……」 ハルヒの言葉に続くように、今度は宇宙から眺める地球の姿が映し出される。そして、 「嘘だろ……」 俺は驚嘆の声を上げた。まるで――そうだ、長門が朝倉を分解したときみたいに、地球が一部が粉末のように変化を始めた。 それは次第に地球全土へと広がっていき、最後には風に飛ばされるようにちりぢりにされ消滅してしまった。 呆然と見ることしかできない俺。と、スクリーンに星以外に一つだけ残されているものがあった。 「無意識に自分のみを守ろうとしたんだと思う。気が付いたとき、あたしは宇宙から消えていく自分の星を眺めていた。ただその恐ろしさと悲しさに泣きじゃくりながら何もできずに」 ハルヒだった。まだ幼い容姿のハルヒが宇宙空間で座り込むような格好で泣きじゃくっている。 目の前で淡々と語るハルヒは決してそのスクリーン上の自らの姿を見ようとせず目を閉じながら、 「何でこんな事になったのか、この時は理解できなかった。いや、今でも完全に理解できた訳じゃないけど。 あたしはただ情報統合思念体という大きく魅力的に見えたものに触れようとしただけ。なのに、奴らはあたしどころか、周囲全てを巻き込んで消し去ろうとした――許せるわけないじゃない。あたしは何の敵対行動も取っていないのに」 その声には怒気どころか殺気すら篭もっていた。確かに、なにも悪いことをした憶えもないのに、いきなり攻撃されてしかも無関係な人たちまで抹殺したんだから怒って当然か。しかし、何でそこまでして情報統合思念体はハルヒを消そうとする? 「知らないわよそんなこと。とにかく、その後あたしは情報統合思念体からの次の攻撃に備えていた。 あたしの抹殺に失敗した以上、また仕掛けてくると思ったから。でも、いつまで経っても襲ってくる気配はなく、 ただ時間だけが過ぎたわ。おかげでその長い時の間に大体自分ができることがわかったわ。奴らへの対抗措置もね」 「何で連中は追撃してこなかったんだ?」 「あとで奴らの内部に侵入して確認したときにわかったんだけど、最初の攻撃時にあたしは無意識に情報統合思念体に対してダミー情報を送り込んだみたい。あたしは強大な力を手にした。だけど、あたしはそれを自覚していないという形でね。 だから、奴らは地球を抹殺した理由がなくなり、どうしてそう言った行為を取ったのかわからない状態として処理されていた。 そこにあたしは目を付けた」 ハルヒの言葉に続き、周囲のスクリーンに無数――数えることのできないほどのガラス板のようなものが並列で並んでいる映像が映し出される。その一枚一枚には無数のカラフルな丸い点が描かれ、様々な形に変化・縮小・拡大・消滅・発生を繰り返している。 「あたしは地球抹殺の理由の接合性がなくなっていた情報をさらに改ざんした。あたしは自分の力を自覚していない、だから情報統合思念体は何の行動も起こさなかった。だから地球は消滅していないと。 地球自体は消滅前の時間軸に残されていた情報をコピーしてあたしが再生した。幸い、連中も脇が甘いのか、 そういったことは多々にあるのか、あっさりとあたしの情報改ざんは成功したわ。おかげであの日の惨劇はなかったことにできた。 ただあたしが力を得たという情報まで奴らから消去することはできなかった。結構希少な情報だったせいか、前例として広域な情報に関連づけられていたから、これを改ざんすると他への影響範囲が大きすぎて、全部改ざんなんて不可能だったから」 あまりのスケールの大きさに呆然と耳を傾けることしかできない。 「……ここじゃそんなことがあったのかよ」 俺は聞かされた衝撃的な話に疲れがたまり、パイプ椅子の背もたれに預ける体重を増加させる。 ハルヒは続ける。 「とりあえずリセットはできたわ。状況はあたしは力を得たが、それを自覚していないと情報統合思念体は理解している。 この状況下でどうすれば奴らの魔の手から逃れることができるのか、次はそれを模索する必要ができたのよ。 あたしが力を得たことで奴らに目を付けられた以上、うまくやり過ごなければならない」 ここでスクリーンに映し出された一枚のガラス板がアップになる。 「一度でうまくいくとは思っていなかったあたしは、一つの時間平面――このガラス板一枚があたしたちのいうところの『世界』と認識すればいいわ――を支配することにした。こうしておけば、いざ奴らにあたしが力を自覚していることに気が付かれてもいつでもリセットできるし、情報統合思念体には同じようにダミー情報を送り込めばごまかせるから」 「で、どうなったんだ?」 俺の問いかけに、ハルヒはいらだちを込めたように髪の毛を書き上げ、 「それがさっぱりうまくいかないのよ。どこをどうやっても途中で奴らに力を自覚していることがばれて終わり。 その度にリセットを続けて来ているけどいい加減手詰まり状態になってきて……」 ここでハルヒはびしっと俺を指差し、 「そこであんたを呼び出したって訳よ」 「何でそうなるんだよ?」 俺が抗議の声を上げると、ハルヒは指を上げて周囲のスクリーンに別のガラス板――時間平面とやらを映し出す。 「手詰まりになったあたしは別の時間平面に何かヒントがないか調べ始めたのよ。そこであんたたちの存在を知った。 同じようにあたしが力を得ながら、情報統合思念体が何もせずにずっと歩み続けている。力を自覚した日から、 4年も経過しているってのに。それはなぜなのか? どうしたらそんなことができるのか? 詳しく別の時間平面を調査していると奴らに気が付かれる可能性があったから、とりあえず一人適当な奴を こっちに連れてきて教えてもらおうってわけ。とはいってもあたし自身を連れてくるとややこしいことになりそうだから、事情を知っていそうな奴を選んだけど」 そういうことかい。で、唯一の凡人である俺が選ばれたって事か。 ここでハルヒは机を飛び降り、また俺のネクタイをつかんで顔を急接近させると、 「さあ、白状なさい。一体あんたの世界のあたしは何をやったわけ? どうやったら情報統合思念体は手出しできなくできる?」 「何もやっていない。少なくとも俺の知っているハルヒは自分の力を自覚していないからな」 「は?」 ハルヒの間の抜けた声。が、すぐに眉間にしわを寄せて額までぶつけて、 「そんなわけないじゃない! 例えなんかの拍子で自分の力に自覚していなくても、周りに情報統合思念体がいるならどこかでちょっかい出してくるに決まっているんだから、すぐに気が付くはずよ!」 「だが、事実だ。情報統合思念体はハルヒがその状態を維持することを望んでいるし、それに俺をここに呼び出す前に俺を付けていたハルヒと一緒にいた小柄な女の子はその対有機生命体ヒューマノイドインターフェースだ」 「バカ言わないで! あたしがあいつらと一緒に仲良く歩いていられるわけがないじゃない!」 ハルヒはつばを飛ばして言ってくるが、そんなこと言われても知らんとしかいいようがない。 それにしてもこのハルヒが持っている情報統合思念体への敵意は痛々しいまでに強く感じる。 「じゃあなんであんたはあたしの力について知っているのよ!」 「長門――情報統合思念体とかその他周囲から教えてもらった」 「じゃあなんであたしに教えようとしないわけ!?」 「一度言ったが、信じてくれなかった」 とりあえず事実だけ淡々と返してやると、ハルヒの顔がだんだん失望の色に染まっていった。やがて、ネクタイから手を離し、机の前まで戻ると、 「……だめだわ。それじゃだめよ。ただ運良くそこまで進んだだけじゃない。とくにあたし自身が自分の力の自覚がないのは致命的だわ。自覚したとたん、情報統合思念体に星ごと抹殺されて終わり。そして、リセットもダミー情報による偽装もできない。 あんたの世界も長くはないわね」 そうため息を吐く。 このハルヒの言葉と態度に、俺の脳天に少し血が上り始めた。まるでいろいろあった俺のSOS団人生を 簡単に否定された気分になったからだ。 「おい、俺のやってきたことをあっさりと否定するんじゃねえぞ。確かにお前みたいに壮絶じゃなかったかもしれないが、俺は俺で色々やってきたんだ。大体、俺のいる世界を全部見たって言うなら、俺たちのその後もわかっているんじゃないのか?」 「あのねぇ、時間平面ってのは数字に表せないほど大量にあるのよ。そこから無作為に検索をかけて、 偶然見つけたのがマヌケ面のあんたがあたしと一緒に歩いている姿を見つけただけ。その後の様子まで確認している余裕はなかったわよ。あまり長時間の時間平面検索は奴らに察知されかねないから」 それを先に言えよ。ってことは、このハルヒは俺たちSOS団についてもさっぱり知らないって事になる。 そこで俺はこのハルヒに対して、俺を取り巻く環境についてかいつまんで説明してやった。 情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースである長門有希。 未来からハルヒについての調査・監視を命じられてやってきた朝比奈みくる。 ハルヒの感情の暴走を歯止めする役目を与えられた超能力者古泉一樹、そしてそれを統轄する組織、『機関』。 ………… だが、ハルヒは話自体は信じたようだったが、やはり俺たちがその後も平穏に進むということについては 懐疑的な姿勢を崩そうとしなかった。 「まさかあたし自らそういう連中とつるんでいたとはね。それも自覚がないからこそできる芸当なんでしょうけど、 とてもじゃないけどリスクが大きすぎてできそうにない。それに皮一枚でぎりぎりあたしに気が付かれていないだけにしか感じられない以上、いつ自覚してもおかしくないわね。その時点であんたの世界は終わりよ」 「なぜそんなに簡単に否定できるんだよ?」 ハルヒはわからないの?と言わんばかりに嘆息し、 「まず『機関』とやらは、情報統合思念体に逆らえるだけの力があるとは思えない。あんたと一緒にいた色男――古泉くんだっけ? ――が、機関の意向よりあたしが作ったSOS団とやらを優先すると言っても、個人で何ができるわけもなし。 未来人については、同じ時間平面上なら移動可能ということは使えそうだけど、そもそも情報統合思念体はそんなことなんて朝飯前。対抗手段としては物足りないわね。最後の情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースについては論外。 奴らの支配下から離れて独立しつつあるとか言われても、信じられるような話じゃない。所詮は操り人形なんだから」 その言葉に俺はいらだちを募らせるばかりだ。まるで外部の人間にSOS団の存在意義を必死に説明してみせているような気分になってくる。いや、このハルヒは確かに俺たちについてまるっきり知らない――それどころか、情報統合思念体に対して明確な敵意を見せているので余計たちが悪い。 だが、俺はSOS団として満足して生きてきていたし、危険も感じていない。長門のパトロンはさておき、 長門自身には信頼を寄せているし、古泉はSOS団副団長という立場の方がすっかり似合っている状態。 朝比奈さんはもうマスコットキャラが板に付きすぎて抱きしめて差し上げたいぐらいだ。そして、皆ハルヒとともに 平穏無事にいたいと願っている。 それの何が問題だというのだ? このハルヒは自分の力を自覚していないとダメになるということを 前提に語っているようにしか見えない。 その後も必死に説明した俺だったが、ハルヒは聞く耳を持たない。 「悪いけど、これ以上議論しても無駄よ。あんたを元の時間平面に送り返すわ。一応礼を言っておくけど、 そっちもかなりぎりぎりの状態ってことはわかったんだから――」 「そうはいかねえよ」 「え?」 元の世界への機関を拒否した俺に、ハルヒはきょとんとした表情を浮かべた。 俺は正直このまま元の世界に戻るような気分じゃなかった。このままSOS団を完全否定されたっきりでは、 気分が悪いことこの上ないし、そもそもこのハルヒのいる世界は破滅とリセットのループを繰り返している。 だったら、俺の世界と同じようにSOS団を作れば同じように平穏に過ごせる世界が作れるはずだ。 俺にはその絶対の確信があった。 「何度でもリセットできるんだろ? だったら、俺の言うとおりに動いてくれ。そうすりゃ、俺たちの世界が どれほど安定しているか教えてやれるし、ここの世界の安定化も図れる。お前だって手詰まり状態だって言っているんだから、 試す価値はあるはずだ。少なくともお前が到達できない場所に俺たちは到達できているんだからな」 「…………」 ハルヒはあごに手を当てて思案を始めた。 ふと、他人の世界にどうしてそこまでするんだという考えが脳裏に過ぎる。しかし、すぐにその考えを放り捨てた。 ここまであーだこーだな状態になっておめおめと引き下がるほど落ちぶれちゃいない。 「……わかったわよ」 ハルヒは渋々といった感じに了承の言葉を出した。しかし、すぐにびしっと俺に指を突きつけ、 「ただし! 条件付きよ。あんたのいう宇宙人・未来人・超能力者にまとめて接触はしない。一つずつ試していくわ。 情報統合思念体の目はどこでも光っているんだから、変に手を広げて取り返しの付かない事態にならないよう 石橋をハンマーで殴りつけながら進ませてもらうわ。あと、あたしは自分の力の自覚はそのままにする。 この一点だけは譲れない。これがダメというなら即刻あんたを元の世界に送り返すから」 条件付きというわけか。はっきり言って、3勢力がそろわないとSOS団には成り立たないが、この際贅沢はできない。 一つずつ接触しても俺のいた世界のSOS団と同じぐらいの平穏な関係は築けるはずだ。 力の自覚については仕方ない。ハルヒは自分がそれを理解していない状態を極端に恐れている節がある。 それに、これに関してはうまい具合にハルヒが黙っているだけで済むから大丈夫か。 「わかった。それで構わん」 「じゃ、決まりね」 こうして別の世界でSOS団再構築という壮大なプロジェクトが始まった。 ――そして、俺がどれだけ甘い考えをしていたのか、嫌と言うほど思い知らされることになる。 ~~涼宮ハルヒの軌跡 機関の決断(前編)へ~~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1942.html
第二章 涼宮ハルヒの選択 1 長門の部屋でカレーを食べて、少しだけ話した。といっても、俺が長門に話しかけていただけだ。それを長門は頷くなり、首を振るなり、ボディーランゲージで答えていた。たまにそれだけでは伝えきれないのか、ぽつりと言葉を使った。サラダは長門が「得意」だというレタスに、トマトの二つだけしか盛られていなかった。別にそこまでの料理でもないのに、長門は水色のシンプルなエプロンを着ていた。カレーを混ぜるのに使っていたおたまとエプロン姿の長門は、熊と熊に咥えられた鮭ぐらいにはまっていた。いつでも木彫りにできるくらいに。サラダには、和風ごまドレッシング――俺が一番好きなドレッシングだ――をかけて食べた。缶カレーを長門の食いっぷりを見ながら食べた。テレビもコンポもない無機質な部屋で――テレビもコンポも無機質なのだが――、俺たちは二人だけの時間を過ごした。ハルヒも朝比奈さんも古泉もいない、長門の任務なんかとは関係ない時間だった。 俺は長門と緩やかな時間を過ごして、長門のマンションを出る頃には午後十一時を過ぎていた。エントランスから自動ドアを抜けて、耳が痛くなるような寒さが俺を襲ったが、やはり寒さというのはゆっくりと身体を侵食していくらしい。街灯だけが頼りの帰り道を足早に歩いていて、長門の部屋のこたつで暖まった身体が少しずつ冷えていった。それだけじゃなく、長門と一緒にいたことで高まっていた言葉にしがたい高揚感も、少しずつ冷めていった。冷静になっていく思考は俺を激しく混乱させた。なぜ長門にあんなことをしてしまったのだろう、なぜ俺はあんな恥ずかしいことを言っていたんだ、なんて取り返しのつかないことを振り帰ることになったからだ。それから、俺は長門とは別のことを考えた。それは、部室で古泉と朝比奈さんが言っていたことだった。「あなたの好きな人が変えられている」、古泉はそう言っていた。それじゃあ、と俺は思う。もし変えられていたとしてだ、俺の「変えられる前の」好きな人は誰だったんだ? 俺は誰が好きだったんだ? 長門じゃないとしたら誰が考えられるのだろう? 最初に思い浮かんだのは、朝比奈さんだった。今日の俺の朝比奈さんを見る目を考えれば猿でも分かるだろう。涙する姿に心を動かされ、髪をかきあげる仕草に興奮する、ありえないことじゃない。次に思い浮かんだのは、鶴屋さんだった。階段でのあのちょっとした時間で鶴屋さんの魅力に引っ張られていたし、あの台風が近づいてきて手前でコースを変えたときのような去り際の寂しさはそう考えるのに十分な根拠だった。三番目に思い当たったのは古泉だった。あのスマイル野郎と抱き合って、愛を語り合っている場面が一瞬フラッシュバックしたが、きっと何かの強迫観念――もしくはPTSDかもしれない――だということで結論づけた。というのは冗談で、本当に三番目に思い浮かんだのはハルヒだった。それにしても、今日のハルヒの様子は異常すぎた。俺が下駄箱で話し掛ければ動揺していたし、それじゃあと教室で話し掛ければやたらと憤慨していた。憂鬱そうな顔で、溜息をつき、今にも消失してしまいそうな覇気の無さだった。いつもの暴走超特急はどこにいったのか不安になったが、退屈な様子ではなかったので、恐らく何らかの陰謀があるかもしれなかった。俺はその陰謀に対して、受身で待つだけだ。 俺は記憶の確認のために、ターニングポイントとなったところだけでも正確に辿ってみることにした。俺が積極的に――ハルヒにばれないように――行動を起こしたのは数えるほどしかない。一年の時に三回、二年の時に二回だ。最初は神人たちが暴走する学校で、キスをしたときだ。キスに関しては夢だったということになっているが。次はちょうど今日、長門の世界改変によって変わった世界で、俺は元の世界に戻る選択をした。俺がこの世界、つまり、神様、宇宙人、未来人、超能力者――実は異世界人もいるかもしれない――なんてのが交錯するふざけた世界を選んだんだ。その次は、未来人との戦いだった。八日前から来た朝比奈さんを守りつつ、怪しげなチップを確保したり、亀を投げ込んだり、訳の分からないことをさんざんやった。二年が始まってすぐに起こった事件が四つ目だ。俺とハルヒが誘拐されたのだ。誘拐したのは古泉の所属している機関とやらの敵対組織だった。俺たちは鉄格子の窓が一つあるだけの完全に閉じられた牢獄で、ハルヒと手錠で繋がれ、どうしようもない状況の中で、必死に脱出を試みた。片手はハルヒと繋がっているし、自由に身動きできない状態で、俺たちは突破口を探した。徐々に体力は失われていき、水分補給もできずに、死に物狂いで探した。なんとか脱出に成功して外に出ると――その経緯についてはここで話すには長すぎる――、そこは山の中だった。俺たちは絶望した。それでも、俺たちは生きなければならなかった。小川の音が聞こえると、朦朧とする意識の中で、ハルヒを背負い、必死に音の鳴るほうに向かった。そこで水分補給を済ませ、俺たちは川を辿って降りていった。三日歩き続けて、俺たちは小さな集落に出ることができた。俺とハルヒは声なき声で叫ぶと、自然に抱き合っていた。まるでB級映画のラストのような、何の意味もない、歓喜のための抱擁だった。その後、そこのおばあちゃんに介抱して貰い、俺たちは一命を取り留めた。考えるだけで、腹が立ってくるできごとだ。最後はヨーロッパ旅行の時だった。鶴屋さんの別荘だという白亜の城は、時間を経て持ちえる威厳と荘厳さに満ちていた。到着して最初の夜に、ハルヒの「雰囲気を味わいましょう」なんて一言で俺たちは全員服を着替える羽目になった。どこかの姫のようなドレスで着飾っていたハルヒと長門、それに朝比奈さん。本物のティアラまで付けてたからな。タキシード姿の正装というなんとも堅苦しい服装を強いられた俺と古泉。古泉はタキシード姿がやたらと似合っていた記憶がある。全ては鶴屋さんによって、俺たちが出国する前から手配されていたと言うから恐ろしい。 ここで俺の思考は止まってしまった。引っかかることがあったのだ。俺とハルヒが誘拐された牢獄の中で、ハルヒは何かを言っていた気がした。だが、虫食いされた記憶を埋めるには周辺の情報が足りなかった。確かに記憶というものは曖昧で、不確実なものだ。だが、そのハルヒの記憶は「忘れてはいけない記憶」に感じた。 記憶の確認をし、長門のことを思い、ハルヒのこと考え、再び長門のことを思い始めたところで、俺は家に着いた。家の玄関から光が漏れていて、まだ寝ていないようだった。俺は小さく息を吐いて、ドアに手を掛け開けた。 「キョンくーん! ……うぅ」 俺がドアを開け、玄関に入った途端、妹が抱きついてきた。顔は涙で一杯だった。いつから玄関にいたのかは分からないが、寒そうに身体を震わせているのを見ると、相当な時間が経っているようだった。 「どうして泣いてるんだ?」 妹を落ち着かせるために、抱きついている妹の頭を撫でながら尋ねた。 「あのねぇー……お母さんが帰ってこないの。それにお父さんも。だから、あたしずっとキョン君が帰ってくるのを待ってたのぉー」 「ちょっと待て」 俺はポケットから携帯を取り出すと、母親に電話をかけた。電話はすぐに繋がった。俺がなぜ家にいないのか問い詰めると、母親は「言うの忘れてたわ」とあっけらかんと伝えてきた。十年ぶりに催された同窓会に参加しているそうだ。新幹線で向かったので、泊りがけの予定だそうだ。携帯の受話口からは周囲の人の騒ぐ声が漏れていて、母親の話す声も携帯を離さないと耳が痛いほどだった。俺は両親が高校生から付き合いだということを知っていて、高校はこの街ではなく都会出身だということも知っていた。電気、ガスを消し忘れるな、鍵を閉めろだのお決まりの忠告を聞き流し、俺は電話を切った。 「今日はお母さんは帰ってこないらしい」 電話中もしっかりと抱きついたままだった妹に言った。 「うん。それより、おなかすいたぁー」 「何も食べてないのか。そうだな、何が食べたい?」 「チャーハン!」 妹はなんの躊躇もなく言った。 「分かった」 俺は玄関の鍵を回しながら言った。 「よし久し振りに作ってやるか。だから抱きつくのはやめろ。このままだとリビングにもいけない」 「うん!」 妹は俺から離れると、笑顔を見せて、ぱたぱたとリビングに走っていった。 「せわしないやつだな」 俺はやれやれと溜息をついたが、もう数年もしたら甘えてくることも無くなるのかと思うと、少しだけだが寂しい気持ちになった。 「まだぁー?」 ダイニングキッチンで騒ぎ立てる妹を無視して、俺は仕上げの作業に入っていた。既に十二時を過ぎているというのに、妹は眠くならないのだろうか? 「キョン君のチャーハン大好きなのぉ、だから早くぅ!」 「だから、少しは待て」 「うぅー!」 確かに妹は俺の炒飯が大好きだった。中学の時はよく作ってやってたし、その度に大げさなまでに俺の炒飯を賞賛していた。炒飯をおいしくする方法は簡単だ。ネギをたくさん入れれば良い。入れ過ぎても駄目なのだが、初心者にはそれで十分だ。他にも隠し味に醤油を入れたり、うまみを少しだけ入れたりすれば良い。 俺はガスを止めて、大皿に炒飯を盛り付けた。それを妹の前に置くと、妹はもの凄い勢いで食べ始めた。 「もう少し落ち着いて食べろ」 俺は向かいの椅子に座ると、頬杖をつきながら、忠告した。 「うん!」 妹はいつも返事だけいい。そして、返事をして無視をするのだ。無視つもりはないんだろうがな。妹の食いっぷりをぼんやりと眺めていると、妹は1.5人前をすぐに食べ終わった。 「おいしかったぁー」 妹は本当においしそうな笑顔を浮かべて言った。 「それは良かった」 俺は妹の空になった皿を取って、立ち上がりながら言った。 「キョン君、ありがとぉー」 「もう食ったんだし、遅いから寝ろ。小学生は寝る時間だ」 「うん!」 本当に返事はいい。俺はなかなか温まらない水道水に腹を立てながら思った。妹は俺が皿を洗っている間にリビングからいなくなっていた。本当にちょっと目を離すといなくなる。別にいなくなっても構わないのだがな。俺の妹はいつ兄離れするのだろうか、ということを、石鹸で熱心に洗っても消える気配を見せないネギの匂いに腹を立てながら、俺は思っていた。 俺が消灯を済ませて、自分の部屋に入ると、俺のベッドには妹が寝ていた。俺がベッドの横に立ち、毛布を引き剥がすと、 「あ、キョン君」 まだ、寝ていなかった。二つ結びにしていた髪を解いて、身体を丸め、横になっていた。 「自分の部屋で寝ろ」 「えぇー、お母さんいないからやだぁー」 確かに妹は母親と一緒に寝ていた。 「お前、来年は中学生になるんだぞ? 一人で寝れないと駄目だろ?」 「今日はやだぁー」 「わがままだな」 「今日はキョン君と寝るの!」 幼い顔で怒ってるのを表現するのは難しいみたいだ。怒ってるのにかわいい顔のままだ。 「今日だけだぞ」 俺は折れることにした。こんな深夜に泣かれても困るし、それに俺は早く寝たかった。 「ほら詰めろ。一人用なんだから狭いんだ」 「うん!」 妹が落ちないように、壁側のほうに妹を行かせた。俺が妹に背を向けるように布団に入ると、妹は俺の背中を突付いてきた。 「なんだ」 「キョン君、なんかお話してぇー。ねむれないー」 「俺は眠れるから問題ない」 俺はそう言って、毛布を深く被った。 「いじわるー」 確かに、俺も眠れそうになかった。今日は色々とありすぎた。そのことを考えると、今日は眠れないだろうと思った。俺は妹が寝ているほうに身体を捻ると、 「分かったよ。どんな話がいい? 童話か? ミステリーか? サイコか? 哲学でもいいぞ。それに……そうだな、宇宙人や未来人や超能力者の話もできるぞ。あと、神様もな」 「かわいい話がいいー」 「かわいい話か……難しいお題だ」 俺は全力でかわいいものについて考えた。 「そうだなぁ……パンダの話なんてどうだ?」 「パンダかわいいー」 妹は頬を緩めた。パンダなら良いようだった。 「昔々――」 「なんかそれっぽいねぇー」 「それがいいんだ」 俺は妹は諭した。物語は始まりが一番肝心だからな。 「昔々、といっても最近のことだ。山奥の、そのまた奥に雌のジャイアントパンダがいたんだ。そのパンダは少し変わっていて、皆と違い、白黒じゃなかったんだ。全身真っ白。まるでホッキョクグマみたいな真っ白パンダだった。名前はリンリンっていう。リンリンは他のパンダと変わっていることで皆と馴染めなかった。リンリンも一緒にいようとはしなかったんだけどな。だから、リンリンはいつも孤独だった。ここまではいいか?」 「うん」 「リンリンはとても美しいパンダだった。それに、真っ白なパンダということで希少価値が高かったから、人間がリンリンをわざわざ山奥まで捕まえに来たんだ」 「リンリンかわいそう」 「かわいそうだけれども、やっぱりパンダじゃ人間に勝てない。だからリンリンは簡単に捕まってしまって、動物園に送られてしまった。普通のパンダだったら嫌がるんだけど、リンリンはむしろ嬉しかったんだ。動物園に行ったら、ライオンやら象やら今まで見たこともない動物と会えるから。リンリンは白黒のパンダを見飽きていたんだ。でも、リンリンの思いとは裏腹にリンリンは他の動物とは会うことができなかった。いつも同じ顔にしか見えない人間だけが相手だった。飼育員さんは優しかったし、問題なかったんだけど、リンリンはどんどんストレスを溜めていったんだ」 「ストレス社会、だね。テレビでもやってた」 「その様子を見た飼育員さんはもう一匹のパンダを一緒に飼うことにしたんだ。そのパンダが動物園にやってきたとき、リンリンは驚いた。そのやってきた雄のパンダはなんと真っ黒だったんだ。リンリンは驚いた後、とても嬉しくなった。ああ、あたしの寂しさを理解してくれるはずだってね。真っ黒のパンダも一緒で真っ白のリンリンを見たとき、とても驚いた。すごく綺麗なパンダだ、だけどどうして真っ白なのってね」 「真っ黒なパンダはなんて名前なの?」 「ユウユウ。リンリンと違って平均的なパンダだった。次第にリンリンとユウユウは仲良くなっていった。それに伴って、リンリンのストレスも解消していった。でもリンリンの問題は根本的には解決していなかったんだ。リンリンはこの柵を越えて、ライオンやら象やらに会うことを望んでいたからな」 「リンリンかわいそうだね。みんなからは嫌われて、ライオンさんにも会えないなんて」 妹は悲しそうな顔をして言った。 「リンリンはどうしたらこの柵を越えることができるのか、一生懸命考えた。考えて、考えて、一つの答えを見つけた。ユウユウと力を合わせれば逃げ出すことができる。でも、それを実行することはならなかった。リンリンの元いた国がリンリンを返せって文句を言ってきたんだ。だから、リンリンはあの山奥に戻らなければならなくなった。リンリンはもの凄く悲しくなった。ユウユウと別れるのが嫌だってのもあったし、ライオンやら象やらに会いたかったんだ」 「あたしは会いたくないな。だって、ライオンさんに食べられちゃうかもしれないし、象さんに踏み潰されちゃうかもしれないよ」 「でもリンリンは会いたかったんだ。別れる最後の日、ユウユウはリンリンに聞いた、そう、ちょうど同じ事を聞いたんだ。『どうしてライオンやら象に会いたいんだ? ライオンは凶暴だから食べられちゃうかもしれないぞ』ってね。リンリンは答えた。『だって、面白いじゃない』。リンリンの答えは単純だった。白と黒しかないパンダの模様、みんな同じ形、全てに飽き飽きしていて、もっと面白いものが見たかっただけだったんだ」 「ちょっと分かりにくいなぁー」 妹は少し眠そうな声で言った。眠らせる話には国会答弁のような単調さが必要だということは分かっていた。 「そうだな、例えで表現してみようか。海って普通は塩辛いだろ?」 「うん」 「リンリンが望んでいたのはイチゴシロップのような甘い海だったんだ」 「そしたらかき氷をいっぱい作れるね」 「でも、そんなものは物語の中にしかないだろ?」 「どこかにあるかもしれないよ?」 「あるかもしれない」 俺は少し考えた後、しっかりと答えた。 「ねぇー、キョン君。もう少し近づいていい? 寒くなってきちゃった」 妹はそう言うと、俺の許可を取ることもなく、俺の胸の中で小さな身体を丸めた。 「寒いならちゃんと布団を掛けろよ」 俺は妹に深く毛布を掛けながら言った。 「キョン君、もうお話はいい」 胸のほうから小さな声が聞こえた。 「どうしてだ?」 「だって、キョン君リンリンのお話してる時、悲しそうな顔してるもん」 「そうか」 物語の終わりは、もう少し先だった。でも、終わりについて俺は何も浮かばなかった。 「もう寝るね。キョン君温かいし、早く眠れそう」 「もう寝ろ」 俺は妹と向かい合っていた身体を仰向けにし、そのまま脱力した。妹は俺の脇に抱きつくような格好で、眠りに入った。まだ痛んでいない髪をベッドに広げて、しっかりと目を瞑っていた。俺は妹の柔らかい髪を指で弄びながら、捕らえがたい安心を感じていた。それをもっと明確にしたくて、ゆっくりと目を閉じた。しかし、明確になる事はなく、妹のぬるい体温とともに漠然とした安心が流れてくるだけだった。 俺は眠くならなかった。むしろ、徐々に意識ははっきりとしていった。動いて妹を起こすわけにはいかないし、やることもないので、さっきの物語の終わりについて考えた。リンリンはあの後どうなるんだろうか? しかし、俺はすぐに考えることができなくなった。オチは考えていたのだが、物語を終わらせることができなかったのだ。次に俺は長門のことを考えようとした。だが、長門のことも考える事はできなかった。あまりにも鮮明すぎたのだ。暗い場所が見えないのは当然なのだけれど、同様に明るすぎる場所もぼんやりとして見ることはできないのだ。 結局、俺はハルヒのことを考えることにした。考えると、ハルヒの笑顔がフラッシュバックして、ハルヒの怒った顔が目の前に浮かんだ。偉そうに指を振る姿も浮かんだし、あの傘を渡した時の気恥ずかしそうな表情も明確に思い出すことができた。古泉は言った『俺の好きな人が変えられている』。俺は『本当の好きな人』が目の前まで来ているような気がした。違う、来ているんじゃない。俺の『本当の好きな人』は俺の中にいた。そう思うと、またハルヒの笑顔が俺の前に浮かんで、俺はその笑顔に触ろうと、懸命に手を伸ばした。でも、それに触る事はできなかった。 「ハルヒ」 ハルヒの笑顔は深夜に走るバイクの音とともに、音の無い部屋に溶けていった。俺はそれを防ぐことはできなかったし、する必要も無いように思われた。もう説明の必要はないだろ? 俺の好きな人がハルヒではないからだ。 「長門」 俺はその名前が持つ安心感に抱かれながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。抱きつく妹の体温を感じながら。いつか見た長門の笑顔が、遠ざかるバイクのエンジン音のように、尾を引いていった。 俺は妹に起こされることもなく、目覚めた。目覚めると、いつもより早く起きたのは全身に感じた寒さによるものだと分かった。俺の身体に一枚も毛布がかかっていなかったからだ。妹は毛布を巻き込むようにして占有していた。俺は震える身体を両腕で押さえながら、上半身を起こすと、ガラス窓にあたる水の音に気付いた。 「雨か」 寒さで完全に覚醒してしまった意識の中、小さく呟いた。俺は妹を起こさないように、丁寧にベッドから降りると、机の上に置いてある正方形の小さな置き時計で時間を確認した。余裕があることが分かると、一つ大きく伸びをして、部屋を出た。 リビングでヒーターのスイッチを入れ、朝飯の用意をするためにキッチンに入った。雨音はだんだんと強くなっていた。冷蔵庫から材料を取り出し、調理に取り掛かった。朝食を作り終えると、自分の部屋に戻って、妹を揺すり起こした。 「あ、……キョン君」 妹は焦点の定まらない瞳を、俺の半分くらいしかない手で擦りながら言った。 「ご飯だ。もうできてる」 「う、うん」 妹はぼさぼさになった髪をほぐしつつ、ふらふらとしながらベッドから降りた。 「キョン君があたしより早く起きるなんて珍しいね。眠れなかったの?」 俺が階段を下りているときに後ろから妹が言った。 「お前が毛布を占有してたからな」 「そんなことないもん!」 「ま、そんなことはいいよ」 リビングに入ると、妹は長方形のダイニングキッチンに、俺は冷蔵庫に向かった。 「何飲む?」 「オレンジジュース!」 「オケ」 妹専用のプラスチックコップに並々とオレンジジュースを注いで、妹の向かいに座った。 「今日ねぇー、キョン君の夢見たの」 「忘れろ」 俺は焼きすぎてしまったウインナーを頬張りながら言った。 「それが、なんか忘れられそうにないタイプの夢だったのぉ」 「たまにあるな」 「ハルにゃんとキョン君が一緒に遊んでた。キョン君たまにハルにゃんに叩かれてたよ」 「ハルヒも出てきたのか」 「うん。でも、ハルにゃん楽しそうだった。すごく綺麗で、あたしもあんな風になりたいなぁって思ったの」 「ハルヒを目標にするのは人生を棒に振ることになるぞ。朝比奈さんにしておけ」 「それから場面が急に変わっちゃったの。今度はキョン君もハルにゃんもすごく恥ずかしそうにしてた。なにをしてたかは分からなかったけど、あたしとても嫌だった。何かキョン君を取られちゃいそうで」 「何でハルヒに俺を取られるんだ?」 「うぅー。もういい、キョン君嫌い!」 妹はたいそうご立腹のようで、皿の上に残っていた醤油をかけすぎた玉子焼きを一口で平らげた。 「一つだけ言っておくが、ハルヒを目標にするのはやめて、朝比奈さんにしろ。そうすれば将来は約束されたもんだ」 「それじゃだめなのぉ!」 「分かったよ」 俺は諦めて、残っていた牛乳を一気に飲み干し、立ち上がった。すぐに皿を片付け、二階に行って制服に着替えた。十二月に入って朝比奈さんから貰った白のマフラーを使おうかと迷ったが、それが朝比奈さんの手製であることがばれた時に大惨事になることは目に見えていたのでやめた。谷口にばれたら、盗まれるか、焼却処分されるに違いなかった。学校の覇権を握っているという、朝比奈後援会の方々にもひどい嫌がらせを受けるかもしれなかった。俺はこのマフラーを朝比奈さんがどんな思いで縫ってくれたのか一通り妄想した後、リビングに戻った。妹も既に着替えていて、俺はリビングテーブルの上に置きっぱなしになっていた家鍵を取って、家を出ることにした。 霧雨になっていた雨を傘で遮って、登校した。かじかむ手を腹からの息で温めつつ、歩を進めた。教室に入ると、ハルヒが俺の顔を見て、ニッと笑った。昨日の不機嫌さはどこにいったのかというほどの笑顔だった。 「どうした、不満は解消したのか?」 俺は鞄を机に掛けながら話しかけた。 「なんだか馬鹿らしくなっちゃったのよ」 「馬鹿らしくなった?」 「そう。なんかあたしらしくないなって思ったのよ。ウジウジして、イライラして、一人で抱え込んで」 「イライラしてるのはいつもだろ」 「それはつまんないことしかないからよ。でも、今回のイライラは全然別物なの。元はと言えばあんたが悪いんだからね!」 「俺が原因なのか? ぜひ説明してほしいな。俺がイライラする事はあっても、お前がイライラする事はないはずだ」 「あんたとぼけるつもり? それとも頭悪い? あ、それは元からか」 ハルヒは納得したように手を打った。 「すまんな。頭が悪いのは生まれつきだ。そんなことは恐らく俺が生まれる前から決まっていたことだろうよ。それより問題なのは、どうして俺が原因なんだってことだ。それを教えてくれ」 「あたしからは言えないわよ! あんたがもう一回言ってみれば?」 ハルヒの声は語尾にいくにつれて小さくなっていった。 「俺が何か言ったのか」 「そうよ!」 しかし、俺が何を言ったかは見当がつかなかった。この記憶は消されてしまっているのだろうか? 「そうか。何を言ったかは覚えてないが、思い出したら後でもう一回言うよ。それでハルヒに確認を取るようにする」 俺がそう言うと、ハルヒは「えっ」と大きな目をさらに大きくしてあからさまに驚いた。 「あんたが覚えてないならいいわよ!」 ハルヒの声は震えていた。もう少し俺が何を言ったのか情報を得ようとハルヒと話そうとしたが、運悪く担任の岡部がジャージ姿で入ってきた。暖房も完備してない馬小屋のような校舎にジャージ姿は寒すぎるだろうと心底思った。俺たちの会話が途切れてしまって、ハルヒは後ろで寝始めた。俺もやることもないし、蛇足の一週間の二日目であることも考慮して、体力温存のために寝ることにした。机に突っ伏しながら、俺がハルヒに何を言ったのか必死に思い出そうとした。ハルヒを一日鬱状態にさせるほどの言葉を俺が発したってことは確かだ。俺は何を言ったんだ? 根っこのない木のような不安定な記憶はどこを辿れば見つかるのだろうか? 今日も俺は昼飯をかきこみ、部室に向かった。もちろん長門に会うためだ。廊下の窓ガラスに大粒の雨がぶつかって、けたたましい音を鳴らしていた。湿った廊下に上靴の足跡を残しながら、俺は長門の元へと急いだ。 部室のドアを開けると、やはり長門はパイプ椅子に座って本を読んでいた。そのいつも通りの姿に安堵しつつ、長門にゆっくりと近づいて、本棚に寄り掛けてあったパイプ椅子を広げた。どかっと座り、何も話すこともないのに長門に話しかけた。 「長門」 「何」 「いや、別に話すことはないんだがな」 「そう」 俺はそこで話す話題を思いついて、長門に訊くしかない話題だと確信した。 「えーっと、今日の朝、ハルヒが言ってたんだけどさ、俺がハルヒのやつに何かイライラするようなことを言ったらしいんだ。長門は分かるか? 俺の記憶がいじられてるみたいで、俺には分からないんだ」 「……」 長門は何も答えなかったが、本をめくる手の動きを止め、何かを考えているようだった。 「禁則事項なんてことはないよな?」 「ない」 「それじゃあ教えてくれないか?」 「あなたは何も言っていない」 「そうか。ってことは、あれはハルヒの妄想だってことだな?」 「……そう」 長門はやけに間を置いて言った。といっても、長門にとっては普通なのだがな。 「ま、どうでもいいか。ところで何を読んでるんだ?」 俺が尋ねると、長門は本を胸の前まで上げて、表紙を見せてくれた。『Nesnesitelnalehkostbyti』。タイトルが英語でもなかったので、全く見当もつかなかった。 「日本語にするとなんて読むんだ?」 「存在の耐えられない軽さ」 「それなら知ってる。有名だしな。長門でも恋愛小説を読むんだな」 「たまに」 長門はそう言うと、本を膝の上に戻し、再びページをめくり始めた。じゃまをするのも悪いと思ったので、立ち上がり、パソコンを起動した。ネットサーフィンをしていると、頭に入ってこないゴシック文字に戸惑った。隣で本を読んでいる長門がどうしても気になってしまった。昨日の手を繋いで帰った光景が思い出されるのだ。長門はどう思っているんだろうか? そもそも手を繋いで帰ろうと誘ったのは長門のほうからだ。 俺たちが教室よりかは幾分暖かい部室で、それぞれの時間を過ごしていると、ドアが開いて、俺はディスプレイから目を外した。 「あ、キョン、こんなところで何してるの?」 ハルヒが部室の入り口で立っていた。ハルヒはそのまま部室にずかずかと入ってくると、俺の後ろからディスプレイを覗いた。 「何だつまんない。エロ画像でも漁ってるのかと思ったのに」 ハルヒは心底残念そうに呟いた。 「長門がいる前でそんなことするか」 俺はブラウザを閉じながら言った。 「ちょっと貸しなさいよ」 ハルヒは俺の肩に寄りかかるようにして、マウスを奪おうとした。取られるのも癪だったので、とりあえず抵抗してみた。 「早く貸しなさいよ! このパソコンはあたしのなの!」 「このパソコンは朝比奈さんの涙の結晶だ」 俺は肩に押し付けられるハルヒの形の良い胸に気付いていたが、ここで反応すると、逆に冷やかされる可能性があったので何も言わなかった。俺が諦めて立ち上がると、ハルヒは俺を突き飛ばして、団長専用椅子に勢いよく座り、その長く直線的な足を組んだ。 「たく、突き飛ばす必要も無いだろ」 俺はズボンについた砂を払いながら立ち上がった。 「つまんなかったからよ。それに、有希と二人で何してるのよ? 昨日もここに来てたでしょ」 「暇つぶしだ。それに、教室よりこっちのが暖かいからな」 ハルヒは「ふーん」と何か企んでいるような顔をすると、 「有希に会いに来てたんでしょ? あんた有希のこと大好きだからね」 「さあな」 俺はハルヒの考え通りにいくのが気に食わなかった。 「どうだかね」 ハルヒはやれやれといった感じに、古泉の仕草を真似た。そして、立ち上がると、 「やっぱいい。あたし教室に戻る」 「人からパソコンを奪っといて使わないのかよ」 「あんたも有希と二人のが嬉しいでしょ?」 「そうだな。平穏な昼休みを過ごせる。昼休みくらいゆっくりさせてくれ」 「バカキョン! 死んじゃえ!」 ハルヒは一メートルも幅がないところで完璧な回し蹴りを俺の腕にクリーンヒットさせた。その勢いはすさまじく、俺が壁に叩きつけられるほどだった。ハルヒはそのまま走って部室を飛び出していった。長門が近づいてきてしゃがむと、俺の様子を伺っていた。 「問題ない」 長門の真似をした俺は、問題大ありの左腕を押さえながら立ち上がった。長門も立ち上がると、俺を気遣うような瞳で――少なくとも俺にはそう見えた――じっと見つめた。 「気にするな。ハルヒのやつも気が立ってたんだろう」 「……そう」 俺は気遣ってくれた長門の頭を優しく撫でた。 「ごめんな、本読むの邪魔しちゃって」 長門は首を横に振った。 「俺もそろそろ戻らないと」 「わたしのこと好きじゃない?」 「えっ?」 「さっき涼宮ハルヒがあなたのわたしに対する好意について訊いたとき、あなたは何も答えなかった」 「なんだ、そんなことか。昨日も言ったが、俺は長門のことが好きだ。変わらないよ」 「本当?」 長門は小首を傾げた。俺の好きな仕草だった。 「もちろん」 俺ははっきりと言った。 「そう」 長門はほとんど唇を動かさずに言って、またパイプ椅子に座り、本を読むことに戻った。 「俺、教室に戻るわ」 俺がそう言うと、長門は俺をじっと見つめて、見送ってくれた。部室から出ようとしたときだった。開けっ放しになっていたドア、その横で、ハルヒが立っていた。俺と目が合うと、ハルヒは走って逃げてしまった。何か思い詰めた瞳だった。追いかけようにも、俺程度の足の速さじゃ追いつくこともできない。ハルヒが視界から消えて、冷静になって初めて、俺と長門の会話がハルヒに訊かれていたことに気付いた。なぜだか俺は取り返しのつかないことをしてしまった気がした。 教室に戻ると、ハルヒは机に突っ伏していた。話すのも気まずいので、俺は何もなかったふりをして、椅子に座り、時間が過ぎるのを待った。一番近い席にいるはずのハルヒがいない気がするほどの距離を感じていた。振り返ればハルヒは確かにいるだろう。俺にはそれができなかったし、怖かった。ここで話したら、俺とハルヒの距離は永遠に埋まらない気がしたからだ。何も話さない、何も言い訳をしない。それが今俺にできる全てだった。 心にわだかまりを感じながら授業をこなし、帰りのホームルームが終わると同時に教室を飛び出た。一刻も早くハルヒから離れたかった。あのままずっと一緒にいたら、俺は何か言い訳をしてしまいそうで、気が狂いそうだった。 部室に行くと、長門と朝比奈さんがいた。冬用のメイド服に身を包んだ朝比奈さんは白の毛糸で編み物をしていた。 「涼宮さんは変わりありませんか?」 朝比奈さんは器用に動かしていた指を止めて、言った。 「あいつはいつも変わってますよ」 「そうですよね」 朝比奈さんは溢れる笑みを浮かべて、頷いた。さっきあったことを朝比奈さんに言ったらどうなるだろう? 怒られるだろうか? それとも泣かれるだろうか? どちらにしろ、俺には先ほどあったことは朝比奈さんに言うべきではないように思われた。これ以上問題を複雑化する必要はない。 騒ぎを起こす奴がいない部室は、ひどく静まり返っていた。雨音だけが激しさを増していった。この雨で道端に留まっていた落ち葉は全て洗い流されるだろう。今日はサッカー部や野球部の声も聞こえなかった。世界があの時の閉鎖空間のような灰色に移り変っていた。どうすれば、俺はこの世界から抜け出せるのだろうか? 長門との会話を聞かれただけで、この喪失感はなんだ? あれは俺の本当の気持ちを言っただけだ。ハルヒに聞かれたからといって何が問題だ。確かに、俺が長門と付き合うようなことがあれば、SOS団は今のままではいられなくなるだろう。そしたら、どうなる? 俺は堂々巡りの思考を続けた。 その日、ハルヒと古泉は部室にこなかった。 長門と二人で帰った後、俺はベッドで横になっていた。すでに両親も帰ってきていた。夕飯を少しだけ食べた。ぼんやりと天井を見上げて、ハルヒがなぜ俺と長門の会話を聞こうとしたのか考えていると、一つの答えが出て、すぐにそれを否定した。ハルヒは俺と長門の関係を疑っていた。しかも、それは今に始まったことじゃない。一年くらい前から、ちょうど世界改変された後からだ。確かに、俺はその時から長門のことを気にかけていた。再び長門が世界を改変しないように。 俺が、ハルヒと長門について考えて、眠りに落ちるまで、そう時間はかからなかった。 *** 目覚めると、俺は部室にいた。長机で制服を着て寝ていた。こういう時の俺の落ち着きようは異常と言うほかなく、とりあえず周囲を見回した。予想通り、窓の外は灰色で、部室の様子は今日の放課後と全く変わっていなかった。ハルヒはどこにいったのだろうか? ハルヒがいるという確証は無かったが、過去の経験から、そしてなんとなくこの世界にハルヒがいるだろうと思った。 俺がパイプ椅子から立ち上がると、石をぶつけたような音が鳴って、窓の方を見ると、赤い玉が浮いていた。 「古泉!」 俺は窓まで駆け寄って、勢いよく窓を開けた。風は入ってこなかったが、じわりと冷気が入り込んできて、肩が震えるような寒さを感じた。 「古泉、またなのか?」 古泉と思われる赤い玉はぐにゃぐにゃと形を変え、人の形になっていった。嫌味なほどの笑みをたたえた顔が形成されると、古泉は俺に話しかけた。 「またです」 「というか古泉、久し振りだな」 「そうですね。あの僕が怒って出て行った日以来です」 「あれについては今言及してる時間はない。後でゆっくり話そう」 「そうしてくれると嬉しいです」 「それじゃあ、今の状況について説明してくれるか?」 「今回の閉鎖空間は非常に特殊です。まず、『神人』がいません」 「あの化け物がいないってことは時間制限がないってことか」 「そうですね。それで一番重要な点なんですが、今回の脱出方法は長門さんも朝比奈さんも、もちろん僕も知りません。あなた自身に見つけてもらうしかなさそうです」 「俺が見つける、か。ところで、この世界にハルヒはいるんだよな?」 「涼宮さんはこの世界にいます。この世界で、あなたを待ち続けています」 「それなら良かった。俺だけこの世界に残されてるんだったら、脱出方法はないだろうからな。ハルヒの場所が分かるなら教えてくれないか?」 「涼宮さんは教室にいますよ」 「俺たちのクラスで良いんだな?」 「そうです」 「古泉、そろそろいなくなるな」 古泉の身体は徐々に原型を留めず、再び赤い玉へと戻りつつあった。 「前回、一年の時と比べても、この世界に他者が介在することを拒んでいるようですね、涼宮さんは。もうそろそろ時間です」 「俺はまたそっちの世界に戻るよ。安心してくれ。ハルヒの奴も絶対に戻してみせる」 「期待しておきます」 赤い玉は一瞬揺らいだかと思うと、灰色の世界に消えていった。 「ごめん、古泉。俺、自信ないわ」 古泉がいなくなった後、窓を閉めながら呟いた。今、ハルヒと会って話すことができるだろうか? 長門との関係を訊かれたら俺はどう答える? 古泉が言っていた通り、俺は教室に向かった。太陽も月もないこの空間で、どこから光が入ってくるのだろうか、廊下の窓からは月明かり程度の光が漏れていた。夜の学校というのは心地良いものだ。誰の声も聞こえない、埃も舞っていない。だから、空気が清潔なのだ。冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んでみた。普段使っていない肺胞まで染み渡るような充足感が俺を追い込んだ。本館までの長い廊下と階段は、死刑台の道のりより遠く感じた。 教室のドアを開けると、ハルヒは自分の机――一番後ろの窓際だ――で寝ているようだった。俺は自分の席に座り、うつぶせたままのハルヒが起きるのを待った。薄い窓ガラスごしにグラウンドを見ながら、いつかのハルヒとの思い出を思い起こした。俺の目の前には、制服姿のハルヒがいた。繊細な髪に黄色のカチューシャを付けていた。髪の間からは白くて小さな耳が覗いて見えた。細くてこれ以上ないくらい洗練された指はしっとりと机の上に置かれていた。ぼんやりとした薄暗いこの空間が、空間とハルヒとの境界を曖昧にして、ハルヒは抽象的な美しさを誇った。 どのくらい待ったのだろうか? ハルヒはゆっくりと顔を上げた。顔を赤くして、ばつの悪そうな様子だった。 「キョン」 「何だ?」 「また来たわね」 「そうだな」 「これ夢なのよね?」 「もちろん」 「嫌な夢ね」 「ああ、最悪だ」 俺とハルヒは目を離すことなく話した。 「あたし、さっきまで長い夢を見てたの。キョンが出てきたわ」 「忘れろ」 「それが忘れられそうにないような夢だったのよ」 「たまにあるな」 どこかで聞いたことのある台詞に感じたが、何かは分からなかった。 「キョンとあたしが一緒に遊んでた。すんごく楽しそうで、ああ、あたしもあんなに楽しそうにキョンと遊びたいなって思って、少しだけ嫉妬した。その後、場面が変わってあたしとキョンは向かい合って、恥ずかしそうにしてた。どっちも何か言いたそうな感じなのに、何も言わないの」 俺はハルヒの夢が妹の夢と同じだということに気付いた。 「夢の中で見る夢か。どちらが夢なんだろうな」 「どっちでもいいのよ」 「そうかもな」 「そうよ。夢は夢でしかないわ」 「夢は夢でしかない」 俺はハルヒの言葉を繰り返した。 「ねえ、キョン」 ハルヒは似合わないほどに甘い声で呼びかけた。 「何だ?」 「あたし、キョンに言っておかなきゃならないことがあるの」 「どうしても今言わなければならないことなのか?」 「夢の中でしか言えないわ」 「言ってみろ」 ハルヒはグラウンドのほうを見た後、俺をしっかりと見据えた。 「キョンはあたしのこと、好き?」 「好きではないと思う」 俺は自惚れでなく、ハルヒの言ってくることが分かっていた。だから、解答も用意できていた。 「そう。あたしは夢の中でもキョンに振られるのね。でも、よく考えたら当然よね。ここにいるキョンは『あたしの中の』キョンなんだもんね。せめて夢の中だけでもって思ったんだけど」 俺は勘違いをしていた。ここにいる俺は「ハルヒの中で作られた」キョンなんだ。俺がどう言おうと、現実にはならない。 「じゃあ、俺も訊いていいか?」 「いいわよ」 「ハルヒは俺のこと、好きなのか?」 「分からないの」 ハルヒは首を横に振った。肩まで伸びた髪が、一本一本明らかに揺れた。 「そっか、じゃあ訊かないことにするよ」 「キョンにしては優しいわね。やっぱり、『あたしの中の』キョンだからかしら?」 「もう一つ訊いて良いか?」 ハルヒはくすっと笑うと、「どうぞ」と言った。今まで見たハルヒの笑顔の中で、一番優しい笑顔だった。 「今日ハルヒが言ってたことなんだ。俺がハルヒに何かを言ったって。俺はハルヒに何を言ったんだ?」 俺が疑問に思っていることだった。 「それはね――」 「それはね?」 「キョンとあたしが指輪を買いに行ったときのことよ。二日前、夢の中だから三日前になるのかしら、とにかく十二月十七日よ。日曜日にあたしたち二人で街中に出かけたときのこと。あたしがわがままを言って、キョンに指輪を買ってっていったの。もちろん、キョンは嫌がるわよね。だからあたしは言っちゃったの。無意識だったわ。『あんた、あたしのこと好きじゃないの?』。そしたらキョンはなんていったと思う? 『好きだが、指輪とは関係ない』。きっとキョンも無意識で言っちゃったのよね。あからさまにしまったって顔をして、その後、『何も聞いてないよな?』って言った。あたしはキョンに合わせてあげた。『何も聞いてないわよ。早く指輪を買いなさい』。合わせてあげた、なんて言ってるけどあたしも恥ずかしかったのよ。その後、キョンはしぶしぶ指輪を買ってくれたわ。安物だったけど、初めてキョンに貰ったものなのよ」 ハルヒは楽しそうに話していた。俺はナゾナゾが解けた気がした。 「そうだったのか」 「これよ」 ハルヒが俺の前に左手を出すと、ハルヒの指には指輪がついていた。ハルヒの言う通り、デザインもシンプルというより陳腐なもので、露店で売っていそうなほどの安物に見えた。 「安物だな」 「あんたのことを気遣って安物にしたのよ」 ハルヒは俺をじっととした目で見つめ、 「でも、大切なものなのよ」 ハルヒは左手をしっかりと右手で包み込んだ。 「現実の俺に会ったら殴っといてくれ。お前はハルヒが好きなんじゃないのかって」 「そうするわ。キョンごときで生意気よ」 ハルヒは笑った。つられて、俺も笑った。 「さて、そろそろ夢の中にいるのも飽きてきたな」 「そうね」 「何をするか分かってるか?」 「もちろん。『あたしの夢の中の』キョンとキスをする、でしょ?」 そう言うとハルヒはゆっくりと目を瞑った。薄明かりの中、長いまつげで顔に陰が落ちていた。俺も目を瞑ると、ハルヒにキスをした。直後に世界がハルヒを中心に収束していった。 *** ひどく混沌とした意識の中、俺は目を覚ました。ベッドで横になっていた。俺は身体を起こし、ベッドから降りると、机の引き出しを開けた。そこにはハルヒが見せた指輪と同じものがあった。俺はその指輪をはめなければいけないことに気付いていた。理由は分からなかったが、俺はその指輪が全ての問題を解決してくれる気がしていた。 左手の薬指にはめると、タイムジャンプした時のような眩暈と不安と嘔吐感が襲って、俺はその場にしゃがみこんでしまった。そして、俺は全ての混乱の始まりを知った。 頭の中を暴走する膨大な情報の中で、妹に話したリンリンの話が執拗に誇張された。リンリンはあの後どうなるのだろうか? 落ちは考えてあった。真っ白の身体のリンリンと真っ黒な身体のユウユウ、それは表面に覆われてる体毛は違うが、その中に隠されている皮膚の色は同じだ。リンリンはそれをライオンに教わるんだ。だから、寂しくない。それで、どうなるんだ? リンリンの抱えている問題の本質はそこじゃない。 それでも、リンリンの物語は終わるだろう。全てに満たされた、暖かい春の日のような穏やかな終わりを願った。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4553.html
手遅れだった。色々と。 「長門!?」 「大丈夫。情報統合思念体との連結が途切れているだけ」 どこら辺が大丈夫なのか小一時間問い詰めたいが、長門だから許そう。かわいいとは正義なのだ!なんて親馬鹿やってる場合じゃねえ。長門は団活時の四割り増しの無表情をしてちょこんと座席に座っていたが、俺の長門センサーはいつ倒れてもおかしくない状況だと大音量で警報を鳴らしている。これじゃあまるで雪山の再来だ。すぐにでもヒューマノイド・インターフェイス用の病院に担ぎ込みたいが、あいにくと住所が分からん。 「連結が途切れてるって、この空間のせいなのか?」 「そう。涼宮ハルヒの発生させた異空間は情報統合思念体からのいかなる干渉も一切受け付けない。原因は不明。情報統合思念体は自らの統制下にない空間が広がることに危機感を抱いている。よって主流派を含む大多数の派閥はあなたに事件解決の望みを託すことを決定した」 ヘリのメインローターの出す音にかろうじて対抗できる音量で長門は言葉をつむぐ。大いなる宇宙の意思をもってしてもドナルドランドの城壁は破れないのか。はっはー。責任重大だね、俺。猛烈に逃げ出したくなるが、ここは住宅地上空約十メートル。さすがに責任を放棄してあの世へ逃げるのは気が引けるな。 「わたしもこのインターフェイスの体力が続く限り支援する。頑張って」 やれやれ。儚い顔をしてそう言われると、身体中の虚勢をかき集めてでも俺に任せておけって宣言したくなっちまうじゃないか。やるっきゃないのかね、まったく。 ところで、ここで一つの懸念がある。このヘリコプターの中には俺の他にパイロット二名、古泉、森さん、新川さんの機関トリオ、そして長門以外にもう一人乗客がいるのだ。失礼ですが、なぜあなたが乗っているんですか、朝比奈さん? 「ふぇっ?わたしですか?」 ドナルドにF-15だかF/A-18だかが放ったミサイルが命中して爆発四散する光景をかわいらしいお口を半開きにして眺めていた朝比奈さんが、意外そうな声を上げて振り向いた。ゆっくり時間をかけて俺の言葉の意味を飲み込んだ朝比奈さんは、少しばかり誇らしげにボリュームのありすぎる胸を張って答えた。 「それはもう、SOS団の団員であり、時間の歪みの監視係であるわたしが、涼宮さんのピンチに何もしないわけにはいかないじゃないですかぁ」 毎日のように朝比奈さんをいじくり回しているどこぞのアホに聞かせてやりたいお言葉である。ただ、正直なところそれは気持ちだけに留めておいて、行動に移しては欲しくないのである。戦地へ赴く兵士の心境である俺にとっては、朝比奈さんは前線へ共に出るよりは、後方で精神的支援をしてくれた方がありがたいのだがな。 声帯から先には出さなかったが、俺の考えていることを大方察知したらしく、朝比奈さんは慌てて懐から何かを取り出した。 「ほらほら、今回は特別に武器の携行まで許可されたんですよ。この細胞分解銃でドナルドさまをマックシェイクにしてやるのでしゅ」 すみません。その御手にお持ちのスペシャルらしい武器は、市販のドライヤーにしか見えませ・・・・・・ん?マックシェイク? 「ふっ!ふっ!ふふぅっ!ドナルドは嬉しくなると、ついやっちゃうんだぁ!」 「未来がドナルドに侵食された。下がって」 狭いヘリの中でどうやって下がるんですか、長門さん?などとつっこむ余裕は無かった。ハリウッド映画のCG技術の高さには前々から驚いていたが、やはり実物にはかなわないことを身をもって教えられちまった。朝比奈さんのふっくらまるいお顔がいびつになると、髪はトマトケチャップのような赤に、唇の赤も周囲に広がり、すけるような色白の肌はペンキを塗りたくったようなわざとらしい白へ。可憐な未来人は世にも奇妙なピエロへと変身を遂げた。この間たったの三秒。いかん、チビっちまった。 とてつもなく恐ろしいものを片鱗どころか丸ごと味わった俺は指先をピクリとも動かすことが出来ない。機関のメンバーでさえ石化呪文をかけられたかのように微動だにしない。パイロットが操縦ミスをしないことを祈る。 そして、まただ。また、俺の方を向いて笑いやがった。言い知れぬ恐怖に俺の心臓をつかまれ、とっさに目をつむった。ドナルドよ、そんなに俺が好きなのか?俺なんかよりも古泉の方がずっとお前の趣味に合うと思うんだが。 「もぉりもりっ!!」 長門の唱える超早口呪文よりも、森さんと新川さんが銃を発砲する音よりも早く、ドナルド・朝比奈は意味不明な雄叫びが聞こえた。今度こそ終わりだ。さらば、俺の人生。もしくは尻穴バージン。もっと長く付き合いたかったよ。特に後者は一生離別したくなかったぜ。 俺は不本意ながらも覚悟を決めた。だが、感じたのは鋭い痛みでもなく不快な血の臭いでもなく、耳をふさぎたくなるような金属音と不燃ごみを燃やす時の嫌な臭いだった。 ゆっくり目を開けると、そこには右手を長門に噛み付かれて封じられているドナルドがいた。左手は謎の黄色い物体を撃ち出しているが、機関の三人が飛びついて上を向かせているさすがに元が朝比奈さんだと銃を撃つのはまずいと判断したようだ。 「ふぁきらめへはらめ」 嫁入り前の女の子が人に噛み付きながらしゃべっちゃいけません。はしたない・・・・・・じゃないな。恥じるべきは何も出来ないでビビッてた俺の方だな。 「いえいえ、あなたにはこれからあなたにしか出来ない仕事をしてもらいますからね。こんなことで手を煩わせるわけにはいきませんので。マッガーレ!」 俺の方を向きそうになったドナルドの左手を捻じ曲げて上を向かせながら古泉が言う。古泉、うるせーよ。ちょっとジーンときちまったじゃねえか。 こうなったら意地でもあの電波少女を正気に戻して、熱血スポ根アニメの最終話みたく地平線から昇ってくる朝日を拝まないといかんな。もちろん、SOS団全員そろってだ。 「生体機能抑制型ナノマシンを注入した。これで朝比奈みくるは涼宮ハルヒを救うまで動かないはず」 散々暴れていたドナルドがついにひざを付いてホッとしたのもつかの間、今度はやばそうな警報が鳴り響いてヘリが機首がお辞儀をしたように下を向いて落下し始めた。つくづく、展開に飽きない夜だ。 「第一エンジン停止!第二エンジンも出力低下!高度が保てない。スーパー61墜落する!」 パイロットが叫び声を上げた後ろで「ブラックホークダウン!ブラックホークダウン!」という叫びも聞こえた気がしたようなしないような。ここはソマリアか? 「まずいですね。天井の上にエンジンがあることを失念していました」 天井はドナルドの攻撃によって見るも無残に穴だらけにされていて、そこから黒い煙が噴き出している。おいおい、黄色い物体の正体はフライドポテトかよ。某乱暴な方は弓矢でヘリを落としていたが、最近のヘリは食い物ごときで落とせるほどひ弱になったのか? 「いやあ、あなたの尻を守るのに必死だったのでゲフッ!」 古泉てめえ。俺の感動を返しやがれ。 「すみませんでした」 森さんに銃尻で殴られた古泉は素直に頭を下げた。いや、森さん。正確にはあなたと新川さんも同罪だと思うんですが。それ以前に、墜落寸前のヘリの中で漫才まがいのことをやっている俺ってかなり逝っちまってるな。これもハルヒの電波を受信しちまったせいか。 「本日はエスパーエアライン、スーパー61便をご利用いただきまことにありがとうございます。残念ながら当機はエンジントラブルのため不時着を敢行いたします。当機にはエアバックが装備されていませんので、手近なものにつかまって衝撃に備えてください」 さすが機関クオリティ。パイロットも肝が太いな。そう考えたところで俺の意識はブラックアウトした。 「お目覚めですか?」 目を開けると十センチ先に古泉の顔があった。息が鼻の頭に当たって実に気持ち悪い。 「最悪の目覚めだ。何よりもお前が生き残っていることが不快だ」 「きつい挨拶ですね。しかし、我々がこうして生きて軽口を叩き合っているのは長門さんのおかげですよ」 古泉が顔を向けた方向には・・・・・・なんてこった。ドナルド・朝比奈さんと仲良く床に寝ているヒューマノイド・インターフェースがいるではないか。長門!しっかりしろ! 「ヘリコプターの落下速度の情報操作で処理能力を使い果たした。これ以上の支援は無理。ごめんなさい」 血の気が引いて真っ白になった顔で、それでも長門は俺に謝った。己の力が及ばないことを。長門のせいじゃないのに。ええいくそっ、長門が謝ることないだろ。悪いのはあの暴走女と狂気の道化師だ。 「今回の暴走は彼女の意志とは関係ない。だから、彼女を悪く言ってはだめ。早く助けてあげて。それに彼女の願望を具現化する能力を使えば今夜の出来事をなかったことにすることも可能。SOS団のためにも、お願い」 くっ、すまない。長門。元に戻ったら図書館でもどこでも好きな所に連れて行ってやるからな。長門はミリ単位でゆっくりとうなずき、身体に残る生命力を全てつぎ込むようにして最後の言葉をつぶやいて、目を閉じた。 「また、マクドナルドに」 一番美味しいところを持っていきやがって。ドナルド・マクドナルド。俺は貴様を絶対に許さねえ。心の中で燃え上がる紅蓮の炎を感じながら、隣に立っている超能力者に尋ねた。 「古泉。ここは・・・」 どこだ、は喉から出てこなかった。ついでに炎も一瞬で消えちまった。俺は無傷で不時着したヘリがドナルドどもに包囲されていることに気づいちまったんだ。百や二百じゃすまねえ。千人以上の同じ姿をした化け物に囲まれているという、ある意味壮観ともいえる光景だった。例えるならグランドキャニオンあたりが妥当だな。すまん、俺自身も何を言いたいのかさっぱり分からん。 「ここは北高のグラウンドですよ。我々は無事に目的地に到着することができました。喜ばしいことなのですが、同時に人生最大のピンチを迎えているといっても良いでしょう。なにせ弾の数よりも敵の数が多そうですから」 さしもの古泉も引きつった顔をしながら答えた。両手で握っている銃も心なしか震えているように見える。俺はどうなっているかって?聞くな。でかい方は漏らしていないと思うが。 「ハハハハハ」 「ヒャハハハ」 ドナルドどもの笑い声が鼓膜を乱打する。やめてくれ。これじゃあ、普通に襲われた方がまだましだ。気が狂うのが早いか、それとも洗脳されるのが先か。そんな競争真っ平ごめんだ。 「ハハハハハ」 「ヒャハハハ」 しかし、なぜかドナルドは俺たちに襲い掛かろうとしない。何かを待っているかのようにひたすら笑っているだけだった。いい加減、銃を構える森さんたちも辛くなってきただろうと思ったとき、そいつは現れた。 「キョン?キョンなの!?」 救世主か、それとも破滅の使者か。ドナルドの群れをかき分けてハルヒが走ってきた。良かった。朝比奈さんみたいにドナルドに変化していない。むしろ、マクドナルドの女性店員用制服がかわいいぜっ!・・・・・・俺はこんなときに何を考えているんだ。 「ほら、主演男優の出番ですよ」 古泉以下機関の皆さまに押されるがままにヘリの外に出てハルヒと向かい合う。正直に告白しよう。ハルヒを説得して正気に戻す方法なんていっさら思い浮かばなかったね。ショック療法として頭を目いっぱい叩く以外はな。ショック療法は最後の手段として取っておくことにして、とりあえず会話を試みてみた。 「よっ、よう、ハルヒ。あー、元気か?」 「元気!すっごく元気よ!ドナルド様のおかげでね!!」 ああ、ハルヒよ。お前はなんて濁った目をしてるんだ。漫画等で狂った描写として目が濁って描かれることがあるが、まさか本物にお目にかかれるとは思ってもみなかったぜ。俺のある種の嬉しくもない感動に関係なく、ハルヒの開閉装置が故障した口からは猛毒の電波が発信されまくっていた。 「ドナルド様はね、プラトンに師事してイデア界を知覚することによってフライドポテトの箱舟を作り道に迷ってたモーセ一行を助け出してマックシェイク律法を与えられそれをキリストに教えることでキリスト教の影の支配者になってウパニシャット哲学とピクルスを生み出し輪廻からの解脱を果たしてムハンマドのラクダに孔子と一緒に乗ってヒマラヤの奥深くまで行きそこで瞑想をしてハンバーガー四個分の悟りを開くことによってマクドナルド教の教祖となったのよ!」 こいつは逝っちゃってるね。脳みその隅々までケチャップ漬けにされちまってやがる。この症状ではブラックジャックもさじを投げそうだ。俺もさじを投げて500キロくらい離れた場所に行きたいが、残念ながらハルヒに腕をつかまれちまって逃げることすらできない。 「さあ、あたしについてきなさい。キョンも最上至極宇宙第一のビックマックを食べればドナルド様、教祖様のすばらしさが心に刻み込まれるはずよ!」 よし決めた。俺は昔から力の出し惜しみが嫌いだったんだ。アニメの戦闘シーンで主人公が最強の技をなかなか使わないと、そのつど心の中で悪態をついてた性質でね。最終兵器を使うタイミングは今しかないと見た。 「ハルヒ、少しの間だけ唇を借りるぞ」 「ちょっと。ドナルド様は・・・んっ!?」 うへっ、こいつの口の中チーズバーガーの味がする。このチーズの味の割合の多さからかんがみてダブルチーズバーガーだな・・・・・・いかん、俺もドナルドに洗脳されかかっているようだ。ついでに視界の端に般若のような形相をした古泉が見えたような見えなかったような。でも、もうそんなこと関係ねえ。これでクソったれな世界ともおさらばだぜ。ほら、目を覚ませばそこは俺の部屋。フロイト先生が墓からよみがえって腹を抱えて笑っている・・・ 「何すんのよ、こんのエロキョン!!」 「あべしっ!?」 ハルヒのグーパンチによって左頬をしたたかに殴打された俺は、待ち焦がれた自室のベッドの上ではなく埃っぽいグラウンドの上に倒れ伏した。俺に馬乗りになってさらに殴りかかろうとするハルヒを、森さんたちが慌てて羽交い絞めにしてなんとか引っぺがした。やれやれ。同じ手は二度は通じないか。無念、ガクッ。 「大丈夫ですか?」 心なしか嬉しそうな微笑をたたえた超能力者が近づいてきて地面と密着している俺の顔を覗き込んだ。うるさい。声をかけてる暇があったら超能力らしく力を使って俺の痛みを和らげてやがれ。 「前にもお話したとおり僕の超能力は閉鎖空間限定、しかも攻撃専用なのであなたのご要望にはお答えできませんよ。ですが、この世の全ての苦痛を癒すことのできる熱いキスなら・・・」 「さて、ドナルド地獄から脱出する方法を考えようか」 「スルーとはひどいですね」 変態超能力者を振り切るために軽いノリで言ってしまったが、はて、どうしたものか。最終兵器はハルヒを正気に戻したもののそれ以外は変わらないという、なんとも中途半端な効果しかなかった。こうなったらハルヒの頭を記憶がなくなるまでタコ殴りにするしか、ってありゃ?さっきまであれほどいたドナルドが一人もいないじゃねえか。ハルヒが正気になったから消えちまったのか? 黄色い道化師どもの姿を探してきょろきょろしていると、羽交い絞めからハルヒが駆け寄ってきた。すわ、殴られる!と思って反射的に身を引いてしまったが、俺にぶつかってきたのはコンクリート並みの強度を持つ拳ではなく、予想外の言葉だった。 「キョン!ごめんなさいっ!」 しばし呆然とした。あの傲慢なことで右に出るものはいない涼宮ハルヒが頭を下げて謝っていた。一生のうちそうそう見られない姿だと判断した俺は、すかさず脳内カメラのシャッターを切って厳重に保存した。 「キョンはSOS団の調査が始まったことに恐れをなしたマクドナルドが、急遽発動した人類ハンバーガー計画によって囚われの身になってしまったあたしを助けるためにみんなと一緒に活躍していたのね。あたし、洗脳解除の方法がワクチンの口移しだなんて知らなくて。本当にごめん」 森さん。あんたらいったい何を吹き込んだんですか?ドナルドの洗脳の影響が残っているらしいハルヒは、どうやら頭の中がお花畑になっているようだ。電波を出すのは携帯までにしてくれ。ハルヒを落ち着かせるために声をかけようと口を開いた瞬間、世界で最も聞きたくない声を何の構えもなくダイレクトに聞いてしまった。 「こんにちばんはぁ!」 反射的に声のした背後を振り返ると、今夜何度目になるだろうか?世にもおぞましい光景がそこに広がっていた。ドナルドを中心に。 「これかっ?これかっ?これかこれかこれかぁっ!?」 校舎の屋上に集結した千人規模のドナルドどもは、謎の掛け声と共に融合を繰り返して一体の巨大なドナルドになろうとしていた。はっはー。ここまできたら笑うしかねえ。 「我々超能力者の涼宮さんの状態を確認する能力によって分かった良いニュースと悪いニュースがあります。どちらを先に報告しましょうか?」 真っ青な顔をして、それでもゲイ人根性なのか微笑んでいる古泉が嫌な選択問題を出してきた。悪い方を先に頼む。悪いニュースを後にしたら良いニュースとの落差による衝撃で、立ち直れなくなるか心臓発作を起こしそうだ。 「いいでしょう。まずは悪いニュースからです。どうやら涼宮さんの願望を実現する能力によって急激に強大化したドナルドは、そのコントロールを完全に離れて独立して存在できるようになってしまったようです。つまり、涼宮さんが正気に戻ってもドナルドは消滅しなくなったというということです。こうなったら涼宮さんが全力で今夜の出来事は夢だと願わない限り消滅しないでしょうね。しかも、願望をかなえる能力を吸収して存在のさらなる強化を行っているように思えます。ドナルドの願望がかなったとき、地球はハンバーガーになりかねません」 じゃあ、あの馬鹿みたいにでかいドナルドは何なんだ? 「異空間内に展開した部隊から入った情報によると、涼宮さんが正気に戻ったのと同時刻に交戦中のドナルドが消失したそうです。よって、あそこの巨大ドナルドはドナルドの全てだと思われます」 わけが分からんが、SOS団唯一の文芸部員長門有希女史ならこう表現するだろうな。ドナルド・マクドナルドは自律進化を遂げた、と。 ドナルドが一体になることで重量が一点に集中しすぎたのか、校舎にひびが入ったかと思うとあっという間に崩壊してしまった。飛んできた破片の一つが俺の頬を切り裂いて擦過傷を作る。これは夢なんだと信じたい淡い願望が流れ出る血によって打ち砕かれる。 「次は良いニュースです。涼宮さんが正気に戻ったので異空間の膨張が停止しました。それと、自衛隊とアメリカ海軍がドナルドに対して総攻撃をかけると機関本部から無線連絡がありました。どれだけダメージを与えられるかは不明ですが、危険ですので早いとこドナルドから離れた方がよろしいかと」 「驚いた?ドナルドは君のことが大好きなんだよ」 ドナルドは俺たちのほうを向いて地の底から響き渡るような声をだした、いや、もはや怪獣のうなり声に近いな。我ながら情けない話だが、怖くて足が言うこと聞かねえ。今のドナルドと比べたら、ナイフを持った朝倉なんか水たまりで泳ぐミジンコだぜ。 蛇ににらまれた蛙みたいに恐怖で一歩も動けない俺たちに向かってドナルドが足を踏み出そうとした、その時、歴史が動いたかは知らないが空気を切り裂く音がして、その一瞬後にドナルドの身体に炎の花が咲いた。 「アーロッ!」 またまたドナルドは謎の叫び声を上げるが、そんなことお構いなしに爆発は続き、上空を飛び回っていた戦闘機も一斉にミサイルを放つ。俺たちが立っているところまで熱い空気が届き、皮膚をしたたかに焼く。 「巡航ミサイルと空対艦ミサイルです!早く安全な場所まで退避しましょう!」 んなこたあ分かってるよ!訓練を受けてるお前と一般市民を一緒にするんじゃねえ。やっとのことで地面から足を引っぺがすと、ドナルドに向けて元気良く罵詈雑言を発射するハルヒの腕をつかんだところで違和感に気づいた。 ドナルドは次々に命中するミサイルをものともせず、余裕とも取れる笑みさえ浮かべていやがった。そして、両手を胸の前でクロスさせて右肩に左手のひら、左肩に右手のひらを置いて、何やら呪文のようなものを唱え始めた。 「ラン・・・」 !!俺の全本能が警告した。こいつは絶対にやばい!理性もその意見に全面的に賛成だった。なんならお年玉と小遣い一年分をかけてもいいくらいだ。理性と本能に従った俺は、反射的にハルヒを抱えて地に伏せた。ハルヒの胸がぷにゅーんとなったがこんな状況じゃ喜べねえ畜生! ハルヒにボカボカ頭を殴られてどうにかなりそうだが、ドナルドの方は呪文の次の段階に入ったらしく、胸の前で両手を合わせた。 「離せあほ!やっぱりエロキョンじゃない!あたしの謝意を返せっ!」 「ラン・・・」 ハルヒの願望をかなえる能力が働いたのか、俺たちの目の前にキングサイズの豪華なベッドが出現した。こんなときに何を考えてやがるんだ?出すならせめて核シェルターくらい出しやがれ。ふかふかでやわなベッドよりまだ使える。 とにかく、無いよりはましだとぎゃーぎゃーわめくハルヒを引きずって古泉と一緒にベッドの後ろに隠れた刹那、耳をつんざく狂気の雄叫びが地を震るわせた。 「ルウウウウウウウウウウウウッ!!」 ランランルーって何なんだぁ!?ドナルドが何かを召還するかのように両手を天高く掲げると、強烈な衝撃がキングサイズベッドを襲い、地が波打ち、空が真昼間のごとく光って俺の網膜を焼いた。某特務大佐よろしく「目があ~目があ~」とやりたいところだが、そんなジョークをかます余裕はどのポケットを探してもねえ。 チカチカする目をかろうじて開けると、ちょうど倒壊をまぬがれていた校舎が文字通り全てはじけ飛んだところだった。ついでに逃げ遅れた森さんと新川さんが吹っ飛ばされてヘリに衝突、そのまま二人と一機は仲良く駅の方向へ消えていった。ああ、助けることのできなかった非力な俺を許してください。必ずやハルヒをけしかけて仇をとってみせます。 ドナルドの雄叫びが静まる頃には、数分前まで我らが母校北高が存在していた敷地はハルヒのチートパワーで生き残ったベッドを除いて一面更地になっていた。さらば我が学び舎、か。ストレスの象徴が消えて嬉しいというか、一抹の寂寥を覚えるというか。いやはやこの気持ちは何だろうね。岡部あたりに聞いたら答えを教えてくれるだろうか。 「ははは。航空部隊は全滅。第七艦隊もドナルドの力でハッピーセットにされてしまったようです」 古泉が無線機らしきものを片手に持ちながら乾いた笑い声を出した。ハッピーセット? 「ええ。空母キティーホークがハンバーガーに、揚陸指揮艦ブルー・リッジがおまけの玩具、イージス艦カウペンスがフライドポテト、シャイローがコカコーラ、カーティス・ウェルバーが・・・」 「それ以上は言わんでいい」 古泉の口調がだんだん危なくなってきたので適当なところでやめさせる。さすがの変態力者古泉もドナルドの攻撃に耐えられず神経回路が焼き切れちまったか。だがしかし、平々凡々人である俺の灰色の脳細胞はむしろ活発に働いていた。 昔から胆の太さが自慢だったが、どうやら短期間の内に脳の許容範囲を超えた衝撃と恐怖を受け続けたせいで、大切な部分のネジがどこか遠くへ旅立ってしまったようだ。ニューロンが全部パーン!しちまったのかもな。まあ、とりあえずそのことは置いておいて、今はニトロを投入されたエンジン並みのフルパワーで運転中の脳みそから導き出された結論を実践するのみ。すなわち、日常的な攻撃が効かなければ、非日常的な攻撃あるのみ、ってことだ。 「ハルヒ!」 仕事を成し遂げたようなある種の満足感に満ちた顔をしているドナルドと対照的に、腰を抜かして顎が外れちまったみたいに口を開いているハルヒを呼ぶ。呆けてる暇は無いんだぞ。さあ、お前の持っている普段はいらない子のとんでも神様パワーが必要なんだ。 「何よっ!?」 目に涙をためて恐怖を打ち払うようにしてハルヒが怒鳴り返してきた。ランランルーの衝撃が激しかったようだが、あえて無視する。 「特撮でかませ犬の軍隊がぼこぼこにされた後に出てくるのは何だ?」 「はあ!?こんなときにあんたは・・・」 「いいから、早く答えてくれ!」 俺の気迫に押されたのか、ハルヒはわけが分からないって顔をしつつも顎に手をやり思案を巡らし始めた。 「特撮でかませ犬の後?んー・・・・・・CM?」 「IAIのラビ。このラビはですね、今までも何度かご紹介させていただいたことがありましたが、今日はデジタルカメラをセットにしてなんと129,800円なんです!130,000を切りました!」 ハルヒの背後に怪しい臭いがぷんぷんする通信販売のスタジオとおっさんたちが現れ、最新機種らしいパソコンの紹介を始めた。まったく、惚れ惚れするような能力だ。 ふう。焦るな、焦るなよ俺。答えを教えてはだめなんだ。ハルヒが自分で気づくように誘導してやらんと。吹き出た汗で気持ち悪くなった手を握りなおして頭を振る。 「違う違う。もっと基本的なところに戻るんだ」 さあ、虹色のお花畑、じゃなくて虹色の脳細胞をフル回転させるんだ。お前の大好物だろう?この手の話は。 ハルヒはまた悩み始めたが、それほど長くはなかった。ハルヒは風呂に入って物理の法則を発見したときのアルキメデスのような顔をして、にやりと唇を曲げてから高らかに勝利宣言を行った。 「答えは正義の味方ね!」 残念ながらハルヒの宣言を最後まで聞くことはできなかった。俺たちの前に出現した巨人の着地音に遮られてしまったからだ。吹き荒れる砂煙の先に見えたのは光り輝くハルヒの妄想の産物。正確には・・・・・・あー、どう表現すればよいのだろう。神人と某マクドナルドのライバルファーストフードチェーンのマスコットを合わせた姿、ということにしておこう。意味が分からない?分からないやつはフライドチキンを買いに行け。店頭で似たようなやつの縮小版が出迎えてくれるはずだ。とにかくこいつをカーネルマンと仮称しよう。 「やあ、おはよう」 馬鹿丁寧にハルヒが答えを出すまで手を出さなかったドナルドは、またしても馬鹿丁寧にカーネルマンに挨拶した。ここは化け物の余裕だからこそなのか。 「お話しようよ」 「サンダースッ!」 互いに人間には理解できない宣戦布告をしてファイティングポーズをとるドナルドとカーネルマン。彼らは決して相容れることの無い存在。どちらか一方が滅びるまで戦い続ける、張り詰めた空気がそう教えてくれた。ヘーゲルの弁証法的に言えばテーゼとアンチテーゼみたいな関係か。ジンテーゼに止揚することはないだろうがな。 二人の間を一陣の風が吹き抜ける。俺もハルヒも古泉でさえも微動だにしない。固唾を呑んで決戦の始まりを待っている。たとえ踏み潰される危険性が高いことが分かっていてもだ。決してビビッて身体が動かないわけではない。そんな体験、一生に何度もあってたまるか。 「ランランルー!」 「チキン光線!」 ドナルドに一瞬遅れて正義の味方が力を解放する。目を覆いたくなるような閃光、油臭い衝撃波が俺たちを包む。いかん、吐き気がしてきた。 「フライドォッ!?」 「きゃあっ」 「ぬおっ」 呪文が一文字多い。ただそれだけ、あるいはその致命的な差が勝負を一瞬で決定付けた。 激しい力と力のぶつかり合いに負けたカーネルマンが俺たちの頭上を飛び越えて、毎日俺が汗水たらして上ってくる道を掘り返しながら山のふもとの住宅地に突っ込んだ。なんてこった。カーネルマンがやられちまった。 「ドナルドは涼宮さんの願望を実現する能力を吸収しました。いえ、現在でも吸収し続けています。あなたの言うカーネルマンが敗北したということは、既にドナルドの力の方が強くなっている可能性が高いのです」 復活した古泉が俺の耳にそっと情報を届けてくれた。疑問に答えてくれて嬉しいよ、そのにやけた面を殴りたくなるくらいな。 「そんな、正義の味方がやられるなんて!」 ハルヒが口を手で押さえて悲痛な叫びが隣から漏れる。俺だって叫びたいよ。しかし、そんなことをしている暇は無い。考えないと。九回裏ツーアウト十点差で逆転できる起死回生の策を考えないと。諦めたらそこで試合は終了だって偉い人も言ってたからな! 「カーネルクリスピー!」 「マックナゲット!ふっふぅっ!」 苦しそうにもがくカーネルマンが骨無しチキンで弾幕を張るが、質はともかく物量で勝るドナルドの弾幕に押されっぱなしだ。勝てると踏んだのか、ドナルドは飛び上がって空中で一回転、ライダーキックさながらの版権的に怪しいキックをカーネルマンに叩き込んだ。 くそっくそっくそっ!どうすりゃいいんだ!?もう一度、ハルヒをおだてて放射能をばら撒く怪獣でも出すか?狂気の道化師ドナルドの力が暴走特急ハルヒ号のそれを上回っている限り何を出しても無理そうだ。証明終わり、畜生!・・・・・・ん?何だ、古泉?良い案があるなら・・・!? 古泉のいつになく真剣なアイコンタクトは俺の心に直接呼びかけているようだった。そのおぞましい提案が手に取るように伝わってきたぜ。超能力者の力ここに極まるって感じだ。 「古泉よ。どうしてもそれをやらなきゃいかんのか?」 「僕も本心を言えばやりたくはありません。正々堂々とアタックしたいですから。それでも、生かドナルドかを選ばなくてはなりません。迷ってる暇はありませんよ」 「俺だって生き残るためにはそれなりの恥を晒してもいいと思ってる。だがな、世の中にはどうしても譲れないことが・・・」 ふと、ここに至る過程で身を犠牲にして進めと言ってくれた長門の、あの儚げでいて最後まで心強かった顔が浮かんだ。それだけじゃない、何をしに来たかよく分からなかった朝比奈さん。俺たちを全力で守ってくれた森さんに新川さん、ヘリのパイロット、その他機関の構成員。市民を守るために出動して散っていった名も無き自衛隊員、米軍の兵士たち。わけも分からないままドナルドに襲われて洗脳された人。これから襲われるかもしれない俺の家族、友人、世界中の人々。俺がここで提案を蹴ったら彼らはどうなるのだろうか。答えは明白だ。これはやつを止めるラストチャンスらしいからな。 攻撃を受けてふらふらになっても、呪文が一文字多いだけで圧倒的に不利な状況に陥っても、老骨に鞭打って戦い続けるカーネルマンの姿をバックに、俺の心は速乾性の接着剤のように固まっていった。 「心の中でけりをつけたようですね」 ああ、まったく忌々しいことだよ。世界のために我が身をささげる、なんて安っぽい道徳家の思想に屈するなんてな。 「あなたって人は、どこまでもツンデレですね。そのうち流行が終わってしまいますよ?」 「黙ってろ。嫌なことをとっとと済まして家に帰るぞ!」 馬鹿な掛け合いをやって時間を無駄にしている場合じゃないな。結末をじらすのはテレビ番組だけでいい。俺は口の減らない変態の腕をつかんで戦場、すぐそこでカーネルマンに喉も枯れんばかりに声援を送っている一人の少女の前に向かった。 「な、なあ、ハルヒ。話があるんだが聞いてくれないか?」 「今度は何よっ!?あたしは応援で忙しいのよ!」 目を三角形にして怒鳴るハルヒと正対する。息を吸って呼吸を整える。ある意味ドナルドに襲われるよりも次の言葉を搾り出す方が怖い。ほら、決心もとい諦めはついたんだろ。早く言え!言うんだ! 「おっ、おっ、俺、古泉と・・・・・・その、付き合ってるんだ!」 お母様、お父様、最愛の妹よ。汚れてしまった俺を許してください。ですが、これは仕方がないことなんです。世界を救うためなんです。ドナルドの魔の手から美しき地球を救うためなんです!どうかそこらへんの事情をご理解ください。お願いします。古泉、てめえはやりたくないとかほざいたくせにニコニコしてるんじゃねえ。森さんに報告してシバいてもらうぞ。 ドナルドとカーネルマンは戦っていた。古泉は嬉しそうだった。俺はショックを受けていた。しかし、この場で最も衝撃を受けていたのは、なんと我らが団長様だった。顔から表情がポロポロ落ちていく音が聞こえそうだ。 「は、はは。う、うそ・・・・・・よ。うそに決まってるわ。こんな非常時にうそをつくなんて、キョンもなかなかやるわね」 「団の規則を破ってしまい申し訳ありません。されど、恋愛とは二人の前に立ちはだかる障害が高くなればなるほど燃え上がるものなのです」 「こっ、古泉くん!?」 ろれつが回らなくなっている舌を必死に動かして俺の言葉を否定しようとするが、そこにすかさず古泉がフォローを入れてハルヒの努力をくじく。あれ?何でだろう。ハルヒの悲痛な声が心にグサッと刺さる。急に罪悪感がこみ上げてくる。 「あ・・・・・・ありえない。だって、だって、キョンはあたしのこと見てくれないけど・・・・・・ぐすっ、いっつもみくるちゃんや有希のことばかり見てるから、異性に興味があるのは明白・・・・・・」 「涼宮さん、現実を受け入れてください。僕とキョンたんは相思相愛の仲なのです。何人たりとも僕たちの愛の邪魔をすることはできないのです!さあ、そのことを証明するために誓いのキッスを!」 迫り来る古泉を全力で足を踏みつけて撃退する。ドナルドに掘られてしまえ。あの巨大ドナルドの方にな。っと、それよりも、この予想外の事態は何だ?俺の予想では、ハルヒは俺の一世一代の大うそを聞いてドン引きするか大笑いして 「ああ、キョンと古泉くんが付き合うなんてありえないわ。そうか、さっきからありえないことばかり起きると思ったら、これは全部夢なのね」という流れになって世界は改変され一件落着、のはずだったのに。ハルヒは下唇をかみ締めて今にも泣きそうな顔をしている。涙腺は決壊してしまっているのか、目じりにうっすらと塩水まで浮かべているではないか。これは一体どういういことだ? 古泉にアイコンタクトで説明を求めようとしたら「はあ、さすがはフラグクラッシャー。絶滅危惧種並みの鈍感男です。まっ、そこが魅力とも言えるんですけどね。ハートマーク」と返された。このクソアホ、後で絶対に殺す。森さんやドナルドには任せず俺の手で地獄に叩き落してやる。首を洗って待ってやがれ。 「嫌よ。嫌だよ、こんなの。女ならまだしも、男である古泉くんとくっつくなんて認めないわ。認めるもんですか!」 もはや悪霊に取り付かれているかのようにうつろにしゃべり、目の焦点も合っていないハルヒがうっすらと光り始めた。どうやら作戦は成功したようだな。ランランルーを上回る衝撃を受けたハルヒの心に深い傷跡を残そうとしているが。 「そう・・・・・・これは夢。夢に違いないわ・・・・・・」 ハルヒから発せられた光は夜空へ舞い上がり、世界を包む本流となろうとしていた。はたから見れば美しい光景なんだろうが、俺にはどうもそう捉えることはできなかった。これはハルヒの悲しみによって動いてる力ではないかと感じられてならない。 「涼宮さんの力が再びドナルドを凌駕したようです。これで、終わりですね」 古泉が自分の身体にまとわり付く光を眺めながら、ホッとしたようなため息をつく。ハルヒはすでに直視できないほどの輝きを放っているが、俺は大声を上げて泣いている姿が見えた気がした。すまん、ハルヒ。なんだか分からないが、申し訳ないことをした。世界がまともに戻ったら、またわがままに振り回されてやるよ。マクドナルドに行くのだけはお断りするがな。 「アルァーッ!?」 「It’s finger lickn’ good!」 ドナルドとカーネルマンのそれぞれ意外そうな叫びと、何かを守り通した安堵の叫びを遠くで聞きながら、俺は意識を手放し無重力の世界に身を投げた。 「戻った・・・・・・か」 視界に広がるのは掃除の行き届いてない部屋。天井の隅っこに蜘蛛の巣がはってる。更地になった学校ではない。ドナルドもいない。変態もいない。そして、俺は生きている。」 ここで深呼吸を一回。うん、生きているってすばらしいが、空気よどんでいる。窓を開けないとな。 眠い目をこすりつつ、窓際まで行って部屋と外界を隔てているガラスを横にスライドさせる。涼しい風が部屋の中に入って来る。実に気持ちいい。 「マイルームよ、私は帰ってきた!」 身体の奥底からの衝動に駆られ、つい叫んでしまう。近所迷惑?知ったことか。今夜は近所迷惑どころか世界中をお騒がせした事件を解決したんだ。これくらいの開放感は味わっても許されるだろう。法律が許さなくても俺が許す。 思う存分生きる喜びを開放した後、ベッドのところに戻って落ちていた携帯を拾う。古泉、長門、朝比奈さん、見知らぬ名の外人からメールが一件づつ。最後のは迷惑メールか。 メールの中身は三者三様だったが、結論は皆同じ。要約すると、ハルヒの願望を実現する能力によって今晩のドナルド騒動は無かったことにされた。まさに典型的な夢オチ。自然に身体が踊りだしちゃうくらいハッピーエンドだ。迷惑メールに返信してもいいくらいだ。 「まったく、やれやれだぜ」 ため息をついて窓の外を眺める。まだ日は昇っていない。そういや世界を元に戻した暁には、SOS団全員で朝日を見るんだっけ。時計は三時を少し回った頃だと示している。今から電話をかけまくってどこか見晴らしのいい場所に集まれば、ぎりぎり日の出には間に合うな。どうせ三人は起きてるようだし。よし、思い立つが吉日だ。 一番最初に電話をするのは・・・・・・もちろん我らが団長様に決まってるよな。アドレス帳のサ行からあいつの電話番号を探し出して発信ボタンを押す。ハルヒに電話するのがこんなにウキウキするのは初めてのことなんじゃないか?俺もたった一晩でずいぶん変わっちまったな。それに見合う経験はしたが。時間が惜しい。早くつながれ! 一、二、三、四コール目で相手が出た。 「もしもし、ドナルドです」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5358.html
涼宮ハルヒのOCG③ (2008/9/1の制限改訂です) 「やっほー! みんな、新しい制限改訂が出たわよーーー」 団員全員が机に座って向かい合ってるという、いつもと少し違う日常を過ごしていた俺たちだが、その日常を変えるのが、ドアを蹴破るようにして部室に入ってきた我らが団長涼宮ハルヒ。まったく、もう少し静かに入ってきてくれ。ドアが壊れても俺は知らんぞ。 「さっきコンビニ行ってVJ買ってきたわ、みんな見ていいわよ?」 なんかえらくハルヒが上機嫌だな。とはいえ制限改訂となれば俺も気になる。前回は死者蘇生が戻ってくるなんていうハプニングもあったしな、どれどれ・・・。 新禁止が・・・早埋、混黒、次元融合とかか、まあ妥当だな。インスタントワンキルはもうこりごりだ。サイドラも制限か、世界大会での採用率が高かったらしいしこれも普通かな? 準制限と制限解除が・・・・ 「裁きの龍はライトロードというファンデッキのエースカードのはず、準制限は疑問。」 長門、それは流石に無理があるぞ。制限にならなかっただけでも喜ぶべきだ。 「・・・そう」 「ダムドが準制限でよかったあ。それに増援とディアボリックガイが解除です。これは私の時代が・・」 朝比奈さんがいつものメイド服のままはしゃいでいる。というか朝比奈さん、未来人ならこの制限改訂の結果も知ってたんじゃないですか? 「ふふ、禁則事項です☆」 朝比奈さんはいたずらっぽくウインクしながら、ハルヒのお茶を淹れる為に食器棚に向かっていった。今回の制限改訂、うーんまあ風帝が緩和されなかったのが俺としては残念だ。邪帝が無制限なら風帝ももう少し緩和を・・・、んっ、ちょっと待て、ダムドビートはダムドが準制限、ライトロードは裁きの龍が準制限。剣闘獣はどうしたんだ? 「どうやら○ナミも剣闘獣の規制に関してはお手上げだったようですね。」 頼んでもいないのに古泉がしゃべりだした。お手上げなんてことはないだろ、ガイザレスなりベストロウリィなりチャリオットなりを規制することはできたはずだ。 「そうは言われましても、もう発表されてしまったものはしょうがないです。僕としては、これで今日は閉鎖空間へ行かなくて済みそうなので大歓迎ですが。」 といいつつハルヒを見ると満面の笑みを浮かべている。やれやれ、この改訂もハルヒが願ったからなんて言わないでくれよ。 「さあみんな!デッキを新制限にむけて組みなおすわよ!キョン、あんたは大してデッキ変わんないんだから、有希やみくるちゃんが組みなおしてる間にあたしと勝負しなさい!」 よーし受けてたってやる。環境最前線ばかりが強いわけじゃないてことを教えてやるぜ。 「キョンのくせに生意気ね、マッチで勝ったほうがジュースおごりよ。ジャンケン、ポン!あたしの先攻!」 こうしてやたら白熱した放課後は過ぎていった。正直に言おう、けっこう楽しい。 カバンをとって部室をでようとすると誰かに袖をつかまれた。こういうことをやるやつは1人しかいない。 「どうした?長門。」 振り返ると黒曜石のような目をして俺をみているヒューマノイドインターフェイスがいた。何かいいたそうだな。 「今日、7時にいつもの公園に」 長門は透き通るような声でそれだけをいうと、すたすた歩いていった。またなんか事件か?ハルヒは今日終始ご機嫌なように見えたのだが。もしかしたら長門自身のことかも知れない。まあいずれにせよ、長門の頼みを断る理由なんてあるわけない。俺でも長門の役にたてるなら、なんだってやるさ。 家族には適当な言い訳をして俺はいつもの公園へとチャリをとばしていた。あの公園もいろいろあったものだ。まだ眼鏡だったころの長門との待ち合わせ、朝比奈さんとのタイムトラベル、さて今度はなんだろうか。とまあいろいろ考えてるうちに公園に着いた。だが、珍しいことに長門はまだ来ていなかった。まさか時間か場所を間違えたか?だが、まだ時間前だったのでベンチに座って待っていると、 「久しぶり」 背後から聞き覚えのある声がかけられた。と、同時に俺は身震いして声のした方へ身構えた。この声は・・・ 「5月以来?それとも冬以来かな?」 クラスの元委員長にして情報統合思念体急進派のインターフェース、消えたはずの朝倉涼子が立っていた。 「どういうことだ、なんでお前がまたここに?」 俺は少しずつ後ずさりながら言った。くそっ、部室にいた長門は偽者だったのか?いや表情を見る限りそんなことはなかったはずだが・・・ 「あれ、長門さんから聞いてないの?」 朝倉は微笑みながらゆっくりこっちへ近づいてきた。その手にはいつのまにかナイフが握られている。そして周りの風景はいつかの情報封鎖空間と化していた。やばい、マジでやばい。長門、来れるなら来てくれ・・・・ 「彼に説明するのを忘れていた。・・・うかつ。」 長門が俺のすぐ横にいた。長門、頼むからどういうことか分かりやすく説明してくれ、俺では理解できん。 「今目の前にいる朝倉涼子はあなたに害意をもっていない。彼女は一度情報連結を解除された後、思念体に回帰し派閥を変えて穏健派となった。穏健派になって以降の彼女とは私は定期的に連絡をとっていた。最近の活動内容を話したところ、彼女も興味をもち、今日はあなたとデュエルするためにここに私が呼んだ。だが彼女はまだインターフェースを持たない為、通常空間では長く存在することが難しい。よってこの空間を生成し、現在に至る」 長門にしては分かりやすい説明だ。だがなんで朝倉はナイフをもっているんだ? 「それは・・・」 「演出、そうよね?長門さん」 「そう。」 まったく勘弁してくれ。こっちは寿命が3年ほど縮まったような気がするぞ。 「驚かせてごめんね。で、さっそくデュエル始めない?」 朝倉は悪びれた様子も無く笑い、ナイフを捨てて(ナイフはすぐに消えた)言った。いや、別にやるのは構わないんだが、机も椅子も無いこの空間でどうやってやるんだ?というか俺はデッキをもってきてないぞ。 「私が今作成した。こっちがエキストラ。」 長門がデッキを俺に向かって差し出していた。スリーブの色までまったく同じだ。ちなみに茶色だ。朝倉は濃紺のようだ。 「方法は・・・せっかく情報封鎖空間にいるんだし、ちょっとリアルにやってみない?」 朝倉はそういうと例の高速詠唱を始めた。3メートルほど離れて対峙していた俺と朝倉それぞれの前に、半透明で空中に静止しているデュエルフィールドが現れた(なんかスペースがいつもより1つ多いと思ったら除外ゾーンだった。○ナミより気がきくんだな) 「やり方はいつもあなたたちがやってるのと全く同じ。ただ、モンスターや魔法・罠がCGで私たちの間に実体化されるだけ。それじゃ、準備はいい?」 こうなったら俺も男だ。売られた勝負は買ってやるぜ。それに今回は命の危険があるわけでもないしな。いざとなったら長門がいる。どうにでもなるさ。よし、いつでもいいぞ朝倉。 「ただ決闘普通に決闘やっても面白くないから、何か賭けをしない?」 賭けだと?別に構わないが、互いの命を賭けるとかは無しだぞ。 「もう、そんなこと言わないって。信用無いなあ、私」 とはいっても俺は二回もお前に殺されそうになってるんだ、そのくらいは警戒して普通だろ? 「二回目はここにいる私の意志と関係ないんだけどな・・・。まあいっか。負けたほうが勝ったほうの言うことを一つだけ有機生命体ができる範囲でなんでも聞く。これでいい?」 了承だ。ならジャンケンだ朝倉、先攻後攻を決めないとな。 「先攻はあなたにあげる。5月のおわびも兼ねて。」 少々詫びる観点がずれてる気もするが、くれるものはありがたくもらっとくぞ。俺の先攻、ドロー! ハーピイ・クイーンを攻撃表示で召喚。カードを一枚伏せてターンエンドだ。 「私のターン、ドロー。豊穣のアルテミスを攻撃表示で召喚。カードを3枚伏せてターンエンドよ。」 俺のターン、ドロー。やたら伏せカードが多いのが気になるな・・召喚権は残しておこう。バトルフェイズ、ハーピイ・クイーンで敵モンスターに攻撃だ。 「攻撃宣言時に伏せカードを発動するわ、次元幽閉。」 そうはいくか、こっちも伏せカードオープン、ゴッドバードアタックの効果でハーピイ・クイーンをコストに・・・ 「うん、それ無理。チェーンして魔宮の賄賂を発動。ゴッドバードアタックは無効ね。」 くっ・・・魔宮の賄賂の効果で1ドロー。逆順処理終了か。しかしこのCGシステムはリアルだな、本当に次元の裂け目にハーピイ・クイーンが吸い込まれていきそうになりやがった。ダイレクトアタックの時はどうなるのか、考えたくも無いね。 「魔宮の賄賂で罠カードをカウンターしたことにより、手札より冥王竜ヴァンダルギオンを特殊召喚するわ。残念ながらあなたのフィールド上にカードがないから効果は不発だけどね。」 なんだって、これは予想してなかったぜ。というか朝倉のデッキはパーミッションか。けっこう頭使うんだよな、このデッキは。 「さらに豊穣のアルテミスの効果で1ドロー。あ、安心して。このデュエル中、私は一切の情報操作は使えないわ。普段なら読もうと思えばいつでも読める有機生命体の情報をあえて読めなくすることによって駆け引きがうまれる。こんなに面白いことはないわね」 朝倉はニコリと微笑んだ。1学期当初に見ていた笑みとは違って、心から楽しんでいるような笑みだった。こいつもこんな笑い方するんだな。メイン2、裏守でモンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンドだ。 「私のターン、ドロー。ねえキョン君、私は派閥を移して長門さんと定期的に連絡をとるようになってから、昔はわからなかった感情とかがいろいろと理解できるようになったわ。パーミッションのデッキを組んだのも、相手との駆け引きがしたかったから。ただ単純にモンスター効果で攻めて倒すのは私にとってつまらないの。」 今日はよくしゃべるんだな、朝倉。別にしゃべるのは自由だがお前のターンだぞ。 「普段は長門さんとしかしゃべらないからね・・。少し嬉しくて。バトルフェイズ、ヴァンダルギオンで裏守に攻撃よ」 裏守は魂を削る死霊だ。こいつは戦闘では破壊されない。どうする朝倉? 「どうしようもないわね。1枚伏せてターンエンドよ」 俺のターン、一枚ドローして、メイン入るぞ。霞の谷の戦士を召喚。7シンクロで呼び出すのは、ブラック・ローズ・ドラゴン。誘発効果で全体除去を・・ 「モンスター効果にチェーンしてコストを払い天罰を発動。効果は無効に・・」 あまいぜ朝倉、こっちも天罰にチェーンして伏せカード発動!神の宣告だ。ライフを半分払って天罰を無効にする。 「そんな・・・。」 ブラック・ローズ・ドラゴンの効果は有効。よってフィールド上のカードは全て破壊だ(全体除去は爆発するんだな・・。これもなんかリアルだ)。俺はこのままターンエンドだ。 「アルテミスの永続効果でドローするわ。全体除去をした後にフィールドに何も伏せないの?こっちがモンスター召喚したらダイレクトアタックをうけるわよ?」 ああ、かまわん。これしかなかったんだ。パーミッションならモンスターもそう多くはないだろう。大丈夫だ、多分。 「私のターン、ドロー。残念、いいモンスターはひけなかったみたい。裏守をセット、カードを2枚伏せてターンエンドよ。」 正直助かった。ライオウとかでてきたらどうしようかと思ったぜ。やれやれ。俺のターン、ドロー、よしいいカードを引いたぜ。手札から(今ドローした)死者蘇生を発動、墓地のハーピイ・クイーンを蘇生させる、ハーピイ・クイーンをリリースして邪帝ガイウスを召喚、効果で裏守を除外するぜ。裏守は・・・・おっと危ねえ、マシュマロンだ。さらに墓地の風闇2体を除外してダーク・シムルグを特殊召喚!2体で攻撃だ。 「両方とも通すわ。けっこう痛いわね」 これで朝倉のライフは2800.俺は4000.どうなるかはまだ微妙なところだな。ターンエンドだ。 「ドロー、豊穣のアルテミスを攻撃表示で召喚、ターンエンドよ。」 俺のターン、朝倉の場には伏せカードが2枚。1枚はさっきの召喚・攻撃のときなにも発動しなかったからおそらくブラフだろう。問題はもう一枚だが・・・。あれが何かのモンスター破壊だったとしても、もう1体の攻撃は通る。伏せが少ない時にパーミッションは叩いとかないとまずいからな。ちなみに聖バリはさっきブラックローズの除去のときに墓地へ行ったのを確認してあるぜ。よし行くか、邪帝でアルテミスを攻撃! 「ダメージステップに速効魔法、収縮を発動するわ」 くっ・・・400のダメージか、だがこれは想定内だ。ダルシムで豊穣のアルテミスに攻撃だ! 「それも無理、ダメージ計算時、手札からオネストを墓地に捨てて効果発動よ」 うおっ・・これはやばい、やばすぎる。俺のライフは残り2000。オネストめ・・ああ忌々しいカードだ。だがまだ召喚権が残っていたのが幸いだったな。裏守を一枚セット、カードを一枚伏せてターンエンドだ。 「オネストは忌々しいカードではない。非常に有用。」 今まで黙っていた長門が急にしゃべりだした。どうやら俺が忌々しいって言ったのが耳に入ったようだ。まあそりゃ長門もライトロード使ってるんだし有用なのは分かるが・・・こっちとしては嫌なもんなんだぜ。 「・・・そう。でも環境を破壊するカードではない。」 そうだな。仕方ないなオネストは。分かったからこっちを微妙に睨まないでくれ長門。 「えーっと私のターンに入っていいかしら?」 ああすまん朝倉、デュエル中だったな。どうぞやってくれ。 「アルテミスで裏守に攻撃よ」 攻撃宣言時に聖なるバリアミラーフォースを発動だ。チェーンは・・ 「あるわ。罠にチェーンして神の宣告を発動。聖バリは無効にするね」 マジでくたばる5秒前、ずっと伏せてあったカードはブラフじゃないかったのか。やられたぜ朝倉。だがまだ俺のライフポイントは残るはすだ。 「罠カードをカウンターしたことにより、手札からヴァンダルギオンを特殊召喚。これで終わりね、キョン君。ヴァンダルギオンの攻撃!死になさい。」 まだだぞ朝倉、さっき破壊された裏守モンスターはネクロ・ガードナー。こいつを墓地から除外してヴァンダルギオンの攻撃は無効だ。間一髪、助かったぜ。 「惜しかったわね。ターンエンドよ。」 朝倉のライフは1400、俺のライフは400。朝倉のフィールドに伏せカードはない。だが、今の俺の手札では次のターン確実に終わりだ。朝倉の言うことを何か一つ聞かなくちゃいけなくなる。・・・長門がいるからそう無茶は言えないはずだが、そんなことより俺は負けたくないね。なんとかして勝ちたい。いくぜ、俺のラストターン、ドロー! きた。悪いな朝倉、この勝負俺の勝ちだ。 「手札にオネストがあるっていっても?」 朝倉はニコリとわざとらしく笑って言ったが、今の俺には関係ないね。オネストがあろうがなかろうが俺の取るべき方法は1つしかない。手札から魔法カード、地割れを発動。アルテミスを破壊するぜ。そしてハーピイ・クイーンとデスカリバーナイトを手札から除外して、ダーク・シムルグを墓地から特殊召喚! 「ヴァンダルギオンの攻撃力は2800。ダルシムじゃ勝てないわよ。」 ああ、わかってる。だが俺はまだバトルフェイズに入ってないんだな。ダーク・シムルグをリリースして、風帝ライザーをアドヴァンス召喚!起動効果でヴァンダルギオンをデッキトップに戻す。バトルフェイズ、風帝ライザーでプレイヤーにダイレクトアタック! 朝倉のライフが0になった瞬間、俺らの前に展開していたデュエルフィールドが消滅した。 「あ~あ残念。まさかあの状況から負けるとは思わなかったな。」 俺だって風帝を引かなかったら負けだったさ。まあデュエルの勝負はこういう逆転劇があるからこそ楽しいんだ。 「私の負けね。キョン君、何か1つ私に命令していいよ。賭けだからね。」 朝倉は柔らかく微笑んで言った。谷口がAAランク+をつけただけのことはある。心から笑ってる朝倉は朝比奈さんやハルヒにも劣らないほど可愛いね。さて、朝倉に何か命令・・・か。まあ言うことは決まっているんだが、どう伝えるか。 「あなたの思うことを言えばいい。私も賛同する。」 長門がそういってくれると心強いな。よし、なら言うぞ・・・ 「朝倉、命令だ。俺とまたデュエルしてくれ。」 朝倉はキョトンとして首をかしげた後、言った。 「今日はもう無理だけど、長門さんに頼んで情報封鎖空間をつくってもらえば私はいつでも・・・・」 そうじゃない。俺はこんな妙な空間でお前とデュエルしたいわけじゃないんだ。お前がまた北高に戻り、俺たちと一緒に普通の生活をしてほしい。ハルヒが世界改変を行ったとき、俺はみんなに会いたいと思った。そのみんなの中に、朝倉、お前も入ってたのさ。まあ教室でやるわけにもいかないだろうが、SOS団の部室に来ればいつでもできるさ。ハルヒには俺と長門から言っておけばなんとかなる。もしかしたらお前をSOS団に勧誘するかもしれない。これが俺の命令だが、どうだ?朝倉。 「私はそうしたいんだけど・・・統合思念体は・・・」 「今許可が下りた。一両日中に以前使用していたインターフェースを用意するとのこと。ただし能力は非常時を除いて制限される。」 決まりだな。長門、北高に転入してくるときはお前のクラスにしとけよ。 「なぜ?」 長門は黒曜石のような目でこっちを見てきた。何故かって?お前もSOS団にいる時だけじゃなく、クラスにも友達がいたほうがいいだろ? 「・・・・そう。」 長門は僅かにうなずいた。俺の目の錯覚じゃなければ、少し嬉しそうにみえた。 「この空間はあと33秒で崩壊する。」 長門は視線を朝倉へと移すと、淡々と告げた。周りを見ると、よくわからん幾何学模様が渦巻いてた空間が、徐々にいつもの公園の風景になっていく。 「今日はいろいろありがとう。キョン君、長門さん。私は楽しかった。」 見ると朝倉も徐々に光の砂になって消えていた。もう上半身しかない。 「じゃあね。それと・・・・・また明日。」 消える直前に朝倉は微笑み、消滅した。同時に空間も消えて、いつもの公園とベンチがそこにあった。 「・・・あなたのおかげ、感謝する。」 長門はそれだけ言うと、俺に背をむけて歩き出した。感謝するのはこっちの方だぜ、長門。お前が会わせてくれなかったら、朝倉は戻って来なかった。それにな、気を許せる同姓の友達ってのはどんなやつにもいた方がいいんだ。改変世界での朝倉は、お前のことをいろいろと気づかってた。最後に俺を殺そうとしたのも、長門を守る為だったんだろう。今となってはそう思う。 「パーミッションか・・・。やれやれ、明日も部室は決闘祭りだな。」 そう呟いて、俺は自転車にまたがって帰路へついた。 END
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1817.html
例年に比べて少しくらい気温が高かったらしい夏も終わり 通学路の坂、キョンに言わせるとハイキングコースにも涼しさが到来してきた。 季節は秋。 キョンの奴は「うだるような夏がようやく終わってくれた…」なんて呟いてたけど 私に言わせれば夏の方がよっぽど面白い気がする。イベントが多いからね。 まぁ、秋は秋でイベントがあるからいいんだけど。 今日は古泉くんとみくるちゃんは実家の用事、有希は遠い両親に会いにいくらしく休み。 キョンは馬鹿だから先生に呼び出されてるらしい。 つまり私は今一人。理由も言わずに部室の鍵を閉めて帰ったら キョンが混乱するだろうし仕方がないから残ってあげてるって訳。 「あぁつまんない…何で団長のアタシが待たされなきゃいけない訳? 全部キョンのせいなんだから…来たらどう罰を科してやろうかしら? …そうだ、あの馬鹿面見るために隠れていきなり驚かしましょう!!」 そんな事を考えて私は部屋を見渡した後、みくるちゃんのコスプレ衣装の裏に隠れた。 衣装ならたくさんあるし、黙っていればバレないからね。覚悟しなさいよキョン!! その後10分くらいしてようやくキョンが部室に来た。 本当はすぐ出て行こうと思ってたけどキョンが一人の時は何をしているのか気になったし 少し隠れてキョンの観察をすることにした。変態なことしてたら許さないんだから!! 「ん?何だ、今日は皆来てないのか…俺が一番最後かと思ってたんだが…」 なんて阿呆みたいに呟いた後、何とあろうことか団長席に座ったの。信じられない。 後でとっちめてやろうなんて考えてるアタシの耳にその後とんでもない言葉が飛んできたわ。 「ハルヒまで来てないとはな…最近気になって仕方ないし話せなくなるからな。助かった…」 気になる?私を?どんな風に? 「アイツ可愛いよな…」 な……嘘…キョンが私を? 「抱きしめたくなるの何度我慢した事か…偉いぞ俺…」 信じられなかった。いつも振り回しているのに。 そう思ったら嬉しくなったと同時に身体が熱くなった。そう、今まで感じた事の無いような熱さ。 いや、正確に言えばキョンが気になり始めた時に感じた時の熱さと似ている。 でも今度の熱さは私にもしっかり分かった。 性欲。 キョンは私を異性として見てくれている。 恋愛なんて一種の気の迷い、精神病なんて思ってたけど違うのかもしれない。 アタシもキョンを抱きしめたい…それ以上も… そう考えた私は動きが早かった。いい?感謝しなさいキョン。 今からアンタは妄想の中でだけでもアタシに抱かれるの。 アタシはスカートの下から手を入れパンツ越しに秘部を撫でた。 ぐっちょり濡れているのが分かる。これが愛液…キョンを思って出た愛液… アタシの初オナニーの相手はキョンになった…嬉しくてたまらない… 気持ちよくてたまらない…秘部が熱い…ウズウズする… どこかで聞いた覚えのあるオナニーの仕方を思い出しながら必死に指で秘部を刺激する。 そしてもう一方の手で胸を触る…乳首が起っていてまるで自分の身体ではないような感じだった。 しかしアタシはうかつだった。初オナニーだったからかもしれない。 興奮していつしかキョンのいる部室だってことを忘れて一心不乱にしていたせいで 声が漏れて… 「ハルヒ?」 手を元に戻して「隠れてたのよ!!顔が熱いのは熱かったから!!」って言えばいいのに… でも狂ったアタシは止められなかった。 キョンの前で、キョンの顔を見ながら必死に秘部を刺激していた。 よりよい快感。キョンはアタシの前で顔を赤らめて顔を背けている。 止めないと。分かってるのに。アタシの理性じゃ快感には勝てない。 「キョン…キョン…キョン~…もっと…んぁ…」 衣類は乱れ、目の前で愛する人に見られ、二人きりの部室。 そんな状態の中で喘ぎ声なんか止められなかった…ただもう感じるしかなかった… 嫌われたくない…でも…止められない… そしてアタシはとうとう最大まで火照った体をさらけ出しながらキョンにこう言った。 「いい?アタシはね、アンタが好きなの!! アンタを考えながら今生まれて初めての自慰をしてしまったの!! だから…責任を取りなさい!!アタシが好きならだけど… もし好きならだけど…今回だけはアンタの好きにさせてあげるから…」 「本気か?」 え? 「本気でハルヒは俺のことを思って?」 そうよ… 「…嬉しいよハルヒ…俺もお前が好きだ!!だから…好きにしていいか?」 うん… 「初めてだから下手だけど勘弁してくれよ?」 「大丈夫よ…アタシはアンタってだけで大満足なんだから…ん…胸…そんなに強く…」 キョンはアタシを抱きしめると床に寝かせ、キスを一通りした後アタシの両胸を揉んでいた。 「んぁ…いい…キョン…ん…あぁ…」 乳首を指で弾かれる。それだけの行為でアタシの欲求は高まる。 胸を舐められる。それだけの行為でアタシの全てをキョンに委ねたくなる。 「キョン…下も…」 アタシがそう言うとキョンはアタシのパンツに手をかけそっと脱がした。 「凄ぇ…めちゃくちゃ濡れてる…俺が…」 「濡れてるとか言わないでよ…ねぇ…早く…」 分かったよ、と呟くとキョンはアタシのアソコを指で刺激した。 「んん…ぁあ…ヒィ…」 指入れるぞ、そう言うとゆっくりアタシのアソコに指をくねらせていった。 「ぃ…あぁ…ぁん…指…アタシの中に…」 キョンはアタシの一通りの喘ぎ声を聞き終えると自分のモノを出し 「なぁ、入れて…いいか?」 「ん…いいわよ…今日安全日だから……生でも…でも赤ちゃん生まれたら責任取りなさいよね…」 「責任って…」 そう言いながらもキョンはアタシのアソコに軽くモノを触れさせると少しずつ入れていった…」 「ん…痛ッ…や…駄目…ん…血…痛いよ…」 「わ、悪いハルヒ!!大丈夫か?今日はやめ…「やめないで…ちょっと待ってて…」 「分かった…」 その後数十分の間動かさず硬直状態だったけどアタシの「そろそろ…大丈夫そう…」って声で キョンは少しずつ腰を動かした。少し痛かったけどそれ以上にキョンのモノがあるってだけで。 それだけでアタシは満足できた。 「ハルヒ…しまりが…凄い……」 「馬鹿ッ…何言ってんのよ…んぁ…駄目……もうイキそう…」 「俺もだ…抜いた方がいいか?」 「駄目…アタシの中で…中で出して!!」 その声を合図に二人とも同時にイッた。 「キョンの…こぼれたのおいしい…」 「おいハルヒ、床舐めることないだろ…」 「いいじゃない…おいしいんだし…」 こうしてアタシたちの初体験は終わった。 いまでもたまにアタシたちは部室・教室で、普段はキョンの家でしている。 最初夏の方が好きって言ったっけ?あれ、撤回ね。 キョンさえ居ればどの季節だって最高なんだから!!
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4863.html
ドラえもんとハルヒの鏡面世界(仮)1 ドラえもんとハルヒの鏡面世界(仮)2 ドラえもんとハルヒの鏡面世界(仮)3 ドラえもんとハルヒの鏡面世界(仮)4